中東かわら版

№111 リビア:国民議会・代表議会ともに国民合意政府に反対

 国連リビア支援ミッション(UNSMIL)の仲介によるリビア和平交渉が、国民合意政府の結成という最終段階に来て、またもや失敗する気配を見せている。

 7月にリビアに統一と和平をもたらすための国民合意政府の結成を謳った暫定政治合意が署名されたが、これがトリポリの国民議会抜きの署名であったため(2015年7月15日付『中東かわら版』No.55を参照)、その後も最終合意に向けてUNSMILの和平仲介交渉が続いた。その結果、9月21日、ベルナルディノ・レオンUNSMIL特使は、トリポリの国民議会とトブルクの代表議会の双方に「最終政治合意」案を提示し、両議会による合意案の承認、国民合意政府の候補者リストの提出を求めた。最終政治合意案では、国民議会からの要求を組み込み、同議会議員から構成される「国家最高評議会」の一部権限が拡大された。ようやく交渉が最終合意案にまで漕ぎ着けたこと、代表議会の任期が10月21日に切れること、さらにレオン特使の任期も10月末で切れることから、同特使を含めた国際社会は最終合意が成立しなければリビアは真の崩壊状態に陥ってしまうという危機感を顕わにしていた。ところが、10月に入り、国民議会が最終政治合意案には同議会からの修正要求が反映されていないとして、国民合意政府の候補者リストの提出拒否、及び最終政治合意の拒否を発表した。

 

【10月8日、レオン特使が発表した国民合意政府の候補者リスト】

※「執行評議会」=国内、対外政策の重要事項について決定権限を有する。

 

 10月8日、これに痺れを切らした形で、レオン特使は国民合意政府の候補者リスト(上記表を参照)を発表し、国民議会・代表議会それぞれに承認を求めた。発表されたリストには、最終政治合意案に記された「執行評議会」の構成(首相1名、副首相2名、国務大臣2名)とは異なり、3人目の副首相が追加された。3人の副首相には、東西分裂のきっかけとなった混乱期(2014年5~6月)に首相であったアフマド・マイーティーク(ミスラータ出身)が含まれ(例えば2014年5月19日付『中東かわら版』No.32を参照)、国民議会と代表議会から反対の声が出ている。代表議会は、国家最高評議会議長と国家治安評議会議長についても、両ポストにミスラータ出身者が指名されたことに反対している(※ミスラータ民兵組織は国民議会主導の「リビアの夜明け作戦」に参加)。そして国民議会、代表議会ともに、いかなる者にも平等に停戦・非武装化・治安機構への統合といった治安措置が適用されるとする無差別原則について、自派の軍事的勢力基盤が弱体化ないし無力化される危機感を抱き、この点に反対している。

 10月中に最終政治合意が成立しないと判断し、潘基文国連事務総長はレオン特使に続投を要請し、代表議会は任期延長を決定した。レオン特使は今後も交渉を続けると述べているが、国民合意政府の構成をめぐりUNSMILは国民議会・代表議会の双方から批判の矛先を向けられ、リビアの統一と和平の可能性は依然として暗礁に乗り上げたままの状況にある。

 

評価

 国連仲介の和平交渉が始まって1年が経過するが、この1年間は、対話への参加/拒否/ボイコット、合意への反対、修正要求の繰り返しであった。トリポリの国民議会とトブルクの代表議会は互いの正統性を批判し、そのために武力抗争を行い、相手方の政治的・軍事的能力を攻撃することに時間を費やしてきた。このように増幅した相互不信感の中では、相互の利益を満たすための権力分有原則にもとづく国民合意政府さえ、両者の利益最大化をめぐる争いの場となり、合意に至らない。つまり、現状では両者の利益が完全に一致し、両者が納得する条件は存在しないのである。レオン特使もこの点を理解しており、合意文書には今後修正を加えないとしている。

 しかし、最終政治合意の成立に必要な国民合意政府の構成決めにおいては、9月21日の最終政治合意案の提示後に3人目の副首相を加えたり、東西両勢力の民兵組織に合意成立後の安全を保障する治安取り決めがないなど、両勢力から異議が噴出する合理的な理由が存在した。特に後者については、取り決め内容に、対立する軍事勢力が停戦後の治安機構再編に一定の役割を保障されることなどが含まれなければ、両者が停戦にコミットする誘因は見つからない。治安機構再編プロセスの透明性確保と同時に、対立勢力へのこうした安全保障措置も必要であろう。

(金谷研究員)

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