中東かわら版

№107 トルコ:在日トルコ大使館前での乱闘

 トルコで11月1日に予定されている出直し大国民議会選挙(総選挙)を前にした在外投票が、10月8日から10月25日まで東京渋谷区の在日トルコ大使館で行われた。最終日の25日、同大使館前には投票開始時刻の午前9時より前の6時頃から投票を待ちわびる人々が集まり始め、午前7時頃、クルド系トルコ人グループとトルコ人グループとの間で乱闘が発生した。警視庁は装甲車や機動隊を派遣するなどして警戒を強化、一旦はおさまったものの、同日午前10時頃、再度、クルド系トルコ人とトルコ人との間で小競り合いが発生、乱闘に発展した。この騒ぎで近くに駐車してあった乗用車やバス等の窓ガラスが割られ、止めに入った警察官を含め少なくとも12名が負傷、これまでになく大きな騒動となった。投票は同日午後9時で締め切られた。

 この乱闘事件は、本国トルコでも大きく報道されており、例えば「東京のトルコ大使館の外で衝突、複数の有権者が負傷」(today’s Zaman)、「海外での投票終了、東京で乱闘が噴火」(Hurriyet)等と報じられたが、国営のアナトリア通信、トルコ・ラジオ・テレビ協会(TRT)では26日現在、取り上げられていない。

評価

 今回の騒動の発端は(報道の限りでは)投票に訪れたクルド系トルコ人が大使館前でクルドの旗を掲げたり、トルコ人を「テロリスト」と呼んだことにあるとされている。他方、「クルド人か?」と聞かれ「そうだ」と答えたところ、一方的に殴られたとの証言もあり、どちらのグループが先に暴力行為に及んだのかについてははっきりしない点が多い。

 今年の6月に実施された総選挙では、2002年から与党の座に就いている公正発展党(AKP)の議席数が初めて過半数を割り込んだ。エルドアン大統領が自身の権限強化のため憲法改正を目指し国民に信を問う選挙でもあったが、近年急激に存在感を増している親クルド系政党の人民の民主主義党(HDP)の初の議席獲得も焦点の一つであった。結果は、HDPが躍進し80議席を獲得、AKPは過半数を割り単独での政権維持は不可能となった。AKPは極右政党の民族主義者行動党(MHP)や中道左派の共和人民党(CHP)との連立を模索したが交渉は難航、共和国憲法に則り11月1日に解散出直しの再選挙が決定した。

 10月10日、アンカラでクルド系住民や左派グループが、クルド系住民とトルコ人との衝突を終結させるよう求めた集会の会場で大規模な自爆攻撃が発生、死者100名以上というトルコ史上最大の惨事となった。

 トルコでは、2014年秋以降、政府の「イスラーム国」への対応を巡ってクルド系住民の不満が高まっており、反政府デモやクルディスタン労働者党(PKK)によるとされる「テロ行為」が相次いでいる。これに対しエルドアン大統領は「テロには屈しない」としてPKKの拠点への空爆に踏み切り、クルド系住民に多数の犠牲者を出すなど暴力の応酬が続いている矢先に、アンカラにおいてこのような大規模テロが起こった。この事件発生後、トルコ政府は「イスラーム国」戦闘員による犯行と断定したが、シリアとの国境管理や政府の治安対策にクルド系住民を中心として不満が爆発している。

 日本国内には1990年以降、トルコ政府の迫害を逃れて来日したクルド系トルコ人が埼玉県を中心に多く居住しているため、在外投票の結果は、HDPの得票率が圧倒的多数を占めることが予想される。今回の騒動は、投票を目前に控えた緊張関係の高まりが、遠く離れた日本へ飛び火した形となったが、トルコ国内情勢の縮図とも言えよう。

 

 6月の選挙結果の詳細については『中東研究No.524』もご参照下さい。

(金子研究員)

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