中東かわら版

№92 シリア:ロシアが「イスラーム国」への爆撃を開始

 2015年9月30日、ロシア軍がシリア領内での「イスラーム国」などの拠点への爆撃を行った。シリア政府は、ロシアの軍事行動はシリアのアサド大統領からプーチン大統領に宛てた書簡での依頼に基づくものと発表した。ロシアは、最近EU諸国に移民・難民が殺到したことを受けてEU諸国の間でシリア紛争に対する態度に変化が生じつつある中、国連総会を舞台にシリア政府を含むテロリズムに対する広範な同盟を働きかけていた。今般の軍事行動は、上記のような外交的な働きかけの結果が出ないうちに行われた上、アメリカ、フランスは爆撃の対象が「イスラーム国」ではなく「反体制派」の拠点であると主張しており、ロシアの意図には不明な点が多い。

評価

 ロシアによる爆撃実施と時を同じくして、アメリカの国防省はトルコで行っていたシリアの「穏健な」反体制派の訓練事業を一時停止すると発表した。この事業は、「イスラーム国」に対抗する地上兵力として3年間で1万5000人を訓練する予定であったが、現在まで訓練を終えた者は200人に満たない上、実質的な活動を行うことなく雲散霧消した。アメリカは「イスラーム国」対策の同盟軍を主導し、現在も爆撃を行っているが、その件数はイラクとシリアにまたがる広範な地域に1日当たり30件に満たないものである。軍事面に焦点を当てる限り、シリア紛争に対する欧米諸国の政策はほとんど効果を上げていない。そのような中、ロシアが外交的な働きかけだけでなく軍事行動にも打って出たことには、「アサド政権を立て直すことを通じた紛争鎮静化」を図るロシアが外交・軍事的な攻勢を強めている印象がもたれる。

欧米諸国は、ロシアによる爆撃の対象は「イスラーム国」ではなく「反体制派」であり、爆撃の意図がアサド政権支援であると批判している。ただし、この「反体制派」が何を意味するかは疑問が残る。というのも、一般に「反体制派」であると信じられている「自由シリア軍」などのシリア起源の世俗的とされる武装集団は、2012年夏以来現地での戦闘の主役とはなりえておらず、「イスラーム国」に吸収されたり、シリアにおけるアル=カーイダである「ヌスラ戦線」を主戦力とする連合体に加わって露命をつないだりする状態にある。現在、サウジ、トルコが後援し、「ヌスラ戦線」と、同様にアル=カーイダと親密な「アフラール・シャーム」を主力とする連合体「ファトフ軍」がイドリブ県を占拠しているが、「イスラーム国」ではない集団を「良い反体制派」と認識することは、アル=カーイダなどの犯罪集団を支援することにつながる危険な行為である。この段階でイスラーム過激派と「反体制派」を区別して後者を是認することは非生産的である。

 イスラーム過激派の動向を詳細に観察すると、ロシアにとって看過できない事態が生じつつある。9月後半以降、「ムハージルーンとアンサール軍」(チェチェン人が主力)、「タウヒードとジハード部隊」(タジク人が主力)が相次いで「ヌスラ戦線」に忠誠を表明したのである。「イスラーム国」がチェチェン、タジキスタンなど旧ソ連起源の戦闘員を多数受け入れていることは既に知られているが、「ヌスラ戦線」も「イスラーム国」と同様に戦闘員を受け入れる主体であることがはっきりしたのである。こうした観点からも、欧米諸国やサウジ、トルコが「ヌスラ戦線」や同派と連合する諸派を支援・黙認することは、ロシアにとって容認し難い。ちなみに、中国のイスラーム過激派反政府勢力である「トルキスタン・イスラーム党」もシリア領内に拠点を確立し、広報活動を行うようになっており、この点を重視すれば中国も「イスラーム過激派掃討最優先」のロシアの方針に同調することになろう。

 欧米諸国は、「イスラーム国」対策にもアサド政権を打倒にも、これ以上自国の資源を直接投入する意志と能力を欠いた状態にある。それ故、各国がロシアの動きに不同意・不満だとしても、ロシアを抑えて外交上の流れを変える切り札を持っていないように思われる。

(主席研究員 髙岡 豊)

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