中東かわら版

№91 シリア:「イスラーム国」の生態:遊具施設における男女混合の禁止

 2015年9月24日(日本時間)からイード(犠牲祭)が始まった。『ナハール紙』9月27日付や各種報道、活動家の報告によれば、これを機にシリアのダイル・ザウル市の「イスラーム国」が占拠地域下の地元住民に以下のような措置を講じたという。

  • 子供をつれた男女の混合を禁止するために、ダイル・ザウル東部の郊外にあるマヤーディーン市の遊園の閉鎖及び、遊具の所有者に対し遊具の市街への撤去を命令。
  • 犠牲祭の初日から「ヒスバ」が遊具施設付近に駐在しており、間違った服装を理由に複数名の男女を逮捕(「ヒスバ」とは占拠地域の住民の監視や風紀を取りしまる組織である。男女で個別の部隊が存在するとされる。詳しくは2015年2月12日付『中東かわら版』No.245などを参照)。
  • 遊具施設に来た女性3名を自分の家族の男性と同伴していないとして逮捕。

評価

 「イスラーム国」の占拠地域では、地元住民に対して酒やタバコ、音楽といった娯楽や服装などがシャリーアに則る形で禁止・規定されている。

(対象とされるダイル・ザウル市の遊具施設と公園の様子。「ダイル・ザウル・トズバフ・ビ・サムト」より引用)

 一方で、「イスラーム国」は、宗教行事はカリフ制を体現する営為としてその実施を推奨しており、イードもその一環である。一般的に、イード期間中は集団で行う礼拝、貧者への喜捨、牛やヤギの供犠が行われるほか親類、隣人、友人を訪ねあう。また、広場や公園に家族や友人同士でピクニックに行くなどの光景が見られる。「イスラーム国」は、イード期間中に公園や遊具で遊ぶ親子の様子を広報映像の中で積極的に使用している。

 

(「フラート州」のイードの広報映像)

   今回の措置は、イードという宗教的行事と重なる家族との団欒や憩いといった地元住民の慣習を規制する類の措置である。従って、地元住民からの理解を得にくい措置と判断できるほか、地元住民と「イスラーム国」との間に軋轢が発生する可能性が高いことを指摘できる。

 「統治」の一環であるはずの活動に地元住民との間に軋轢を生む余地があるのだとすれば、今回のような措置をめぐる双方の絡み合いの結果として、住民が政府側の占領地に逃亡したり、「イスラーム国」を敵視するといった事態の発展を想起できる。また、そうした住民の取る行動が同市の情勢にどのような影響を与えるのかなど、関心を示すべき箇所は多い。

(イスラーム過激派モニター班)

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