中東かわら版

№90 シリア:ロシアの軍事的関与 #2

9月に入り、ロシアによるシリア国内での拠点構築やシリア政府に対する兵器の供給についての報道が増えている。ロシアは、国連総会に合わせてシリア紛争当事国への働きかけを強化、「イスラーム国」、「ヌスラ戦線」の掃討を優先し、シリア政府を含む「テロ対策」のための連合の形成を図っている。そのような中、9月27日付の『ハヤート』紙は、ロシアがシリア政府に供与、またはシリア国内に移送した兵器について要旨以下の通り報じた。

  • ロシアはシリア政府に対し、SU-24、SU-25攻撃機、無人偵察機、T-90戦車を引き渡した。
  • ロシア政府は、シリア国内にSU-30SM多用途機4機、SU-25攻撃機12機、SU-24攻撃機12機を配備した可能性がある。
  • 偵察衛星が撮影した情報によると、ロシアはシリア国内にKA-29型ヘリを配備した模様である。このヘリは、兵員や装備の搭載が可能で、輸送や航空支援に用いられる。
  • 専門家の話によると、SU-24、SU-25型機は相対的に旧式で、近代化改修も西側諸国が同じ用途で用いる航空機に比べて不十分である。また、これらの航空機の能力は精密性を欠いており、偵察衛星、レーダー、偵察機からの情報がなくては効果的な爆撃は行えないだろう。一方、ロシアは無人偵察機分野では技術的に劣っており、民間用の航続距離が短い偵察機程度の性能しかない。
  • T-90型戦車7両が、ラタキア県のバーシル・アサド空港で防衛配置についている。

 なお、上記の報道のほかにも、過去2週間で少なくともロシアの輸送機15機がシリアに物資や人員を輸送したとの報道や、ロシアが供与した比較的新型の兵器が戦闘に投入されたとの報道もある。

評価

 シリア紛争に対しては、欧米諸国の態度が着実に変化している。これは、シリア政府打倒の見込みも、政権打倒後の体制作りの構想・展望も、紛争解決のための抜本的な措置を取るつもりもないまま紛争に干渉し、イスラーム過激派を含む「反体制派」に肩入れしてきた欧米諸国が、過去数カ月間のEU諸国への移民・難民の殺到という形でシリアのみならず「アラブの春」後の中東政策全般の破綻を目の当たりにしたことに起因していよう。シリア政府を含む「テロ対策」同盟の構築を提唱するロシアの働きかけなどを受け、これまでアサド大統領を排除した上で「政治解決」の交渉をすべしと主張してきた諸国のうち、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどが立場を変更しつつある。現在もアサド大統領排除に固執しているのは、サウジアラビア、カタルに過ぎない。

 一方、なぜロシアがシリア政府を擁護する立場で紛争への関与を強めているのかについては、様々な動機が推測されている。しかし、ロシアがシリア紛争に関与する動機として、同国がシリアに持つ、或いは将来期待できる経済権益や、タルトゥース港に置かれているロシア海軍の拠点の存在だけで説明するのでは説得力に欠けるだろう。カーネギー・モスクワセンターのニコライ・コザノフ氏は、ロシア政府がシリアにおけるイスラーム過激派の勢力伸張が、やがては地域そして自国にとっての脅威になるとの判断こそがロシアの立場を決定しているとしている。また、同氏は、シリアにおけるロシアの軍備増強は西側諸国との対決を意図したものではなく、現在シリアに供給している装備類は西側諸国がシリア政府を排除するための軍事行動を起こすならば、その障害にはならないと分析している。

 ロシアの構想に沿ったものになるか否かはともかく、シリア紛争に対する当事国の立場や政策がより統一的になることは、紛争の収束のためには明るい兆しといえよう。しかし、どのような形であれ、各国の連携や調整が功を奏するための条件は、過去数年間と全く変わらない。第一は、欧米諸国が「反体制派」に対する援助や承認を見直すことである。「反体制派」の政治組織は過去4年間シリア人民の世論の結集にもアサド政権に代わる政体樹立にも成果を上げていない。また「穏健な」武装勢力を育成するという政策も、最近アメリカが養成して装備を提供した「新シリア軍」なる集団が、シリアにおけるアル=カーイダである「ヌスラ戦線」にアメリカから提供された装備の一部を引き渡す醜聞を引き起こしている。また、アメリカなどによる戦闘員の訓練は必要な人数を集めることができておらず、今後も有力な戦闘部隊を育成できる見込みは乏しい。ここまでのところ、欧米諸国による「反体制派」支援は完全に破綻しており、これを続けたとしてもシリア紛争に前向きな影響を及ぼす可能性はほとんどない。もうひとつは、「イスラーム国」をはじめとするイスラーム過激派向けの外部からの資源の供給を絶つことである。これについては、2014年に各国に対策を促す安保理決議が複数採択されたものの、本格的な対策をとっている国は多くない。現に、イラク、シリアのイスラーム過激派に合流した者の人数は2014年半ばの時点で1万5000人と推測されていたが、CIAの最新の推計では3万人に増えている。このような事態を改善するには、イスラーム過激派の活動を黙認・推奨するアラビア半島諸国やトルコがその態度を改めるか否かにかかっていることについても、従来と変わりはない。

(主席研究員 髙岡 豊)

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