中東かわら版

№80 エジプト:議会選挙日程の発表

 8月30日、最高選挙委員会は議会(代議院)選挙の日程を発表した。エジプトの議会は2014年憲法から一院制となり、定数は596、うち選出議席数は568である(残り28議席は大統領が任命する)。日程及び選挙制度は以下のとおり。

  • 立候補受付     9月1~12日(その後、選管による立候補者審査)
  • 最終立候補者の発表及び選挙運動の開始   9月28日
  • 投票(2段階)
 

在外

国内

実施県

第1回

10/17-18

10/18-19

ギザ、ファイユーム、バニ・スウェーフ、ミニヤ、アシュート、ワーディー・ゲディード、ソハーグ、ケナ、ルクソール、アスワン、紅海、アレキサンドリア、ブハイラ、マルサ・マトルーフ

 結果発表

10/20-21

 決選投票

10/26-27

10/27-28

 結果発表

10/29-30

第2回

11/21-22

11/22-23

カイロ、カリユービーヤ、ダカフリーヤ、ムヌフィーヤ、ガルビーヤ、カフル・シャイフ、シャルキーヤ、ダミエッタ、ポート・サイード、イスマーイーリーヤ、スエズ、北シナイ、南シナイ

 結果発表

11/24-25

 決選投票

11/30-12/1

12/1-2

 結果発表

12/3-4

 

  • 選挙制度(選出議席数568)

個人代表区選出 448議席

  • 1人区、2人区、3人区、4人区から構成される
  • 過半数勝利方式。過半数票獲得候補者が出ない場合は、各選挙区で上位2者による決選投票が行われる

名簿区選出 120議席

  • 全国で4区(45議席×2区、15議席×2区)
  • 拘束名簿式。各名簿は、1つ以上の政党、または無所属候補者、または政党と無所属候補者の組み合わせから構成される
  • 各名簿は、一定の割合で、女性、キリスト教徒、農民・労働者、若者、障がい者、在外エジプト人を含めなければならない
  • 過半数勝利方式。過半数票獲得名簿がない場合は、各選挙区で上位2名簿による決選投票が行われる

評価

 2013年7月のクーデターで当時立法機能を果たしていた上院が停止されてから(2012年6月に下院解散)、エジプトでは2年間議会不在が続き、内閣及び大統領が立法機能を果たすという異常事態が続いていた。今年3月にようやく議会選挙が実施される予定だったが、最高憲法裁判所が議会選挙関連法に違憲判断を下し、選挙は延期となった。こうした紆余曲折を経ての議会選挙実施の発表である。

 今次選挙で注目される点は、シーシー政権への批判が極めて困難な政治環境において選挙が行われること、そして新たな選挙制度である。政権や軍を批判したジャーナリストや活動家の逮捕が相次いでおり、一部は「テロリズムの支持者」として扱われている。ムスリム同胞団が公式な政治参加から排除された今、政界には左・右の小さな政治勢力が複数存在するだけで、政権の非民主的な統治方法を本気で批判する雰囲気はない。よって、テロ対策の名の下に行われている政治的自由の制限や逮捕・起訴・公判における手続きを正面から批判する者が立候補する割合は少ないと思われる。

 こうした政治環境に加えて、今回の選挙は上述の個人代表制と名簿制の組み合わせにより、動員力の大きい政治家や政党が当選する可能性が高い。個人代表制とは政治家個人に投票する投票制度で、小選挙区制に近く、必然的に選挙区の有権者に多くの利益を提供できる人物、名前が知れ渡った人物が当選する。名簿制では過半数票を獲得した名簿が当該選挙区の議席すべてを獲得する制度で、比例代表制ではない。社会のさまざまな集団を代表させるよう配慮されてはいるが、票の動員力が大きい政治勢力が勝利する可能性が高いことに変わりはない。一部の政党は、こうした選挙制度は大政党に有利であり、ムバーラク時代の政治家の復権を許してしまうとして政府に修正を要求していたが、要求は受け入れられなかった。

 議会不在の2年間に、抗議規制法、テロ団体法、対テロ法などの政治的自由を制限する法律や、行政機関のトップを大統領が更迭できる法律などが次々と大統領署名によって成立したが、今次選挙によって議会が成立したとしても、シーシー政権の路線を承認する議会になる可能性が高い。

(研究員 金谷 美紗)

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