中東かわら版

№81 イラク・シリア:「イスラーム国」の生態 キリスト教徒の処遇

9月3日付の「イスラーム国」のダマスカス州の広報映像にて、カルヤタイン市のキリスト教徒への庇護契約に関する画像と文書が配信された。この場合の庇護契約とは「イスラーム教徒による非イスラーム教徒に対する生命や財産の安全、保護、保証」を指す。

 

画像:「ダマスカス州」が発行したカルヤタイン市のキリスト教徒との庇護契約に関する文書

今般の文書では以下の11の項目が、庇護契約成立の条件として記述されている。

1.カルヤタイン市内とその周辺にて教会、修道院、修道僧の修行部屋を新規に建造しない。
2.ムスリムのいる街頭や市場にて、十字架や宗教上の象徴一切を見せない。また、礼拝やその他の信仰行為にて拡声器を使用しない。
3.ムスリムに対して聖書の読誦と鐘の音を聞かせないこと。また教会内で鐘を鳴らさない。
4.「イスラーム国」への敵対行為を行わない。
5.教会の外で信仰儀式を行わない。
6.イスラームとムスリムを尊重する。
8.(←訳注:原文のママ。以下の番号も同じ)全ての成人男性のキリスト教徒は人頭税を払う義務がある。富裕者は4ディナール金貨(1ディナール金貨は4.25グラムの金)、中間所得者は2ディナール金貨、貧困者は1ディナール金貨。年間2回払いが可能。
9.武器の所有は認められない。
10.豚やぶどう酒をムスリムに販売しない。公共の場で飲酒しない。
11.通例どおり、キリスト教徒は墓地を持つことができる。
12.「イスラーム国」が定めた正しい服装や販売などの規則に従う。

これらの条件が満たされた上で庇護契約は成立する。また、「イスラーム国」の外部から商業のために金銭を持ってきたキリスト教徒は、所有する金銭の10分の1を支払わなければならない。

評価

「イスラーム国」は、昨年から占拠地域の非イスラーム教徒に対して、人頭税や奴隷制といったシャリーアの強制的な適用を行ってきたとされる。今回の広報活動もその一環として捉えることができる。

今般の文書の体裁は、2014年に発行されたラッカのキリスト教徒に対する庇護契約の文書のそれと類似している。この書類は、条件を受け入れたキリスト教徒一人ひとりに署名させるもののように見受けられる。しかし、項目の「7」が抜けていたり、文書の左上の日付や承認印の項目が空欄だったり、文言に支離滅裂な部分があるなど、行政書類としての体裁を整えていない箇所が散見される。

 その一方で、現地での「イスラーム国」の振る舞いと今般の文書の内容は、かなり乖離していると思われる。9月3日付のシリア人権監視団の報告によれば、カルヤタイン市のキリスト教徒が「人頭税の支払い」、「イスラーム教への改宗」、「市から去る」という三つの選択肢を迫られた結果、既にキリスト教徒を含むほとんどの市民がカルヤタイン市から逃亡したという。また「教会はアッラー以外の神を崇拝している」として同市にある教会を「イスラーム国」が爆破したという。実際には「イスラーム国」が同市に侵入して、ヒトやモノといった資源を収奪する過程の中で、同市の社会構造そのものが危機に晒されている可能性が高い。

(イスラーム過激派モニター班)

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