中東かわら版

№71 エジプト:「シナイ州」によるクロアチア人誘拐事件 #2

2015年8月12日夕刻(日本時間)、「シナイ州」を名乗る団体がクロアチア人Tomislav Salopek氏を斬首した画像を発表した。「シナイ州」は5日に同氏を誘拐したことを発表すると共に、エジプト政府に対し48時間以内に「エジプトの刑務所にいる全ての女性囚人」の釈放を要求していた。今般発表された画像には、斬首されたSalpek氏の遺体の場面に「クロアチアの「イスラーム国」との戦争への参加。エジプト政府とクロアチアが彼を見捨て、猶予期間が終了した後」との文が挿入されていた。なお、現時点ではこれ以上の文書やメッセージ、及び動画は発表されていない。

評価

 今般出回ったのはわずか1枚の画像であり、人質が殺害されたことがわかる以外の情報をほとんど含んでいない。画像に付された文言にしても、「シナイ州」の意識やメッセージが「「イスラーム国」との戦争」に参加したクロアチアに向けられているのか、囚人釈放要求に応じず「人質を見捨てた」エジプト政府に向けられているのか判然としないものである。また、画像左端にエジプト紙のネットサイトから転載したテロ対策についてのクロアチア政府の立場のついての記事・写真が貼り付けられているが、「イスラーム国」に対するクロアチア政府の態度については5日に発表した動画で全く触れておらず、突然持ち出された話題である。

写真:「シナイ州」が発表した画像の左端部分。引用された記事の日付は2015年7月、8月のいずれかと思われるが判読は困難。 

上の見出し:「クロアチア、テロリズムと過激主義対策の努力でエジプトへの支援を確認」

下の見出し:「クロアチア、クルド地区への支援継続を確認」

  この画像は、人質を殺害した後に突如クロアチア政府の「イスラーム国」に対する立場を話題とする、要求事項に対するエジプト政府の反応について非難どころか言及もしない、など情報量やメッセージ性の面で不可解な点を含んでいる。クロアチア政府の外交政策を話題にするならば、処刑予告・脅迫の時点で話題にしなければ同国の政府や世論を動揺させる効果は低下する。エジプト政府の対応についても、それを非難したり、今後も女性囚人の奪回のために同様の作戦を継続する云々などの予告をしたりすれば、作戦の広報効果を高めることができたはずだが、これにも触れていない。今後「シナイ州」が斬首場面や声明の読み上げ場面のようなものを含む動画を発表する可能性はあるが、時宜を逃さない的確な広報を行うことができるか否かも「イスラーム国」などの作戦の効果・巧拙を判断する上で重要な要素であり、その点において、今般の事件は誘拐から処刑予告・脅迫、殺害、メッセージの発信が拙劣な作戦だったように思われる。

(イスラーム過激派モニター班)

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