中東かわら版

№48 クウェイト:シーア派モスクを狙った自爆テロの発生

 6月27日、クウェイト市の中心部にあるイマーム・サーディク・モスクが金曜礼拝中に自爆テロ攻撃を受け、少なくとも27人が死亡、227人が負傷した。28日、内務省は、実行犯はサウジ国籍のファハド・スライマーン・アブドゥルムフシン・ガッバーウであり、犯行当日に空路でクウェイトに入国したことを明らかにした。また、インターネット上では「イスラーム国」の「ナジュド州(注:リヤードなどサウジアラビアの中央部を指す地域)」を名乗る団体が犯行声明を発出し、「多神教徒であるラーフィダ(注:シーア派に対する蔑称)」を標的にしたと述べている。

 テロ事件を受けクウェイト政府は緊急閣議を開催し、石油施設の警備を強化することを決定したほか、サバーハ首長が事件現場を訪問して視察を行った。また、クウェイトの情報省は反シーア派的な言説が問題視されていたサウジアラビアの衛星TVチャンネル『ウィサール』の放映を停止した。

評価

 今回のテロ事件は、クウェイト史上最大の犠牲者を出すテロ事件となった。クウェイトでは、80年代にイランの支援を受けたシーア派過激組織によって散発的にテロが発生し、米国大使館や空港などへの爆弾攻撃、ジャービル首長(当時)暗殺未遂事件が起きている。一連の攻撃のなかでは、11人の死者が出た85年7月のカフェで発生した爆弾テロが最大のものであった。その後、2000年代前半に「半島のライオン」を名乗るイスラーム過激派が活動を活発化させたものの、2005年1月に掃討作戦が実施されて以降、クウェイト国内の治安状況はテロとは無縁であった。

 他方、近年の「イスラーム国」の台頭では、クウェイトからシリア・イラクの過激派に資金が流入していることが問題視され、米国などからも資金の流れの監視を強化するよう要請されていた(「クウェイト:米財務省がテロ組織を支援したクウェイト人3人を制裁リストに追加」『中東かわら版』No.105(2014年8月8日)参照)。また、「イスラーム国」に参加するクウェイト人も少なからず存在しており、思想的に「イスラーム国」に感化された者による国内でのテロの発生を危惧する声もあった。今回の事件の実行犯はサウジアラビア人であるが、現場に向かった際の車両の運転手はクウェイト居住者であることが判明しており、クウェイト国内に支援者のネットワークが存在したことが示唆されている。

 今回シーア派モスクが標的となったのは、先月のサウジでの事件同様、宗派主義を煽ることを目的にしたものであろう(「サウジアラビア:「イスラーム国」が爆破事件に犯行声明を発表」『中東かわら版』No.26(2015年5月25日)「サウジアラビア:ダンマームでの爆破事件」『中東かわら版』No.30(2015年6月1日)参照)。クウェイトでは人口の30‐40%がシーア派であり、スンナ派に対して少数派を形成している。しかしながら、クウェイト国内の社会的な亀裂は、宗派的なものより、政府/議会、都市住民/部族民、有力商人層/知識人層といった差異が強調されることのほうが多い。また、政治的な緊張関係はありながらも、議会政治などを通じて紛争解決を図ってきたクウェイト社会が、一件のテロ行為によって分断されることも考えにくい。

(研究員 村上 拓哉)

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