中東かわら版

№47 イスラエル・パレスチナ:国連人権委員会のガザでの戦闘に関する報告書

 

 6月22日、国連人権委員会が設置した2014年夏のガザでの戦闘に関する独立調査委員会の報告書が公表された。同報告書は、6月29日にジュネーブで開催される国連人権委員会に提出される。独立調査委員会は、昨年のガザでの51日間の戦闘について、イスラエルとガザの武装勢力の両方が国際法に違反しており、その行為は戦争犯罪とみなされるかもしれないと指摘した。

 国連人権委員会は、ガザでの戦闘が継続中の2014年7月23日、イスラエル軍のガザ攻撃について独立調査委員会を設置することを決めた。同決定については、メンバー47カ国中29カ国が賛成したが、米国のみが反対し、日本やEUを含む17カ国が棄権していた。

 イスラエルは、国連にはイスラエルに対する偏見があるとして、独立調査委員会への協力を拒否した。その一方でイスラエルは、国連の調査に対抗するため独自の検証作業を行なった。イスラエル軍は、停戦直後の9月中旬には調査委員会を設置し、同委員会は2015年6月11日、一部の兵士は起訴されるが、それ以外で国内法及び国際法に違反する行為はなかったとの判断を示した。続いて14日には、軍とは別に、イスラエル外務省がガザでの戦闘に関する調査報告書を発表した。この時、ネタニヤフ首相は、イスラエル外務省の報告書を称賛し、国連人権委員会の報告書を読むのは時間の無駄だと発言していた。パレスチナ側の死者総数について、イスラエルと国連の報告書ではあまり差はないが(国連2251人、イスラエル外務省2125人)が、焦点になる民間人の死者数は、国連1462人、イスラエル外務省765人と大きな差がある。ガザのハマースは、イスラエル軍の行動を糾弾する国連報告書を歓迎したが、同報告書で指摘された自分たちに対する嫌疑については反応していない。

 

 イスラエルは、6月末に独立調査委員会の報告書の提出を受ける国連人権委員会のメンバー国に働きかけ、なるべく多くの国に同報告書を承認しないよう求める方針だと報道されている。22日、米国務省報道官は、同報告書について検討中であるとしつつ、米国は、同報告書が安保理に提出されることに反対であること、また国連がガザでの戦闘について新たな調査を行う必要はないとの立場を表明している。なお今後、国際刑事裁判所がガザでの戦争犯罪の有無を審議することがあれば、今回の報告書はその基礎資料となる。

 

評価

 イスラエル側は、独立調査委員会がイスラエル軍の攻撃は戦争犯罪だと糾弾することをかなり警戒し恐れたようだ。しかし、反発はあるが、公表された報告書はイスラエルが懸念したよりはバランスが取れたものになったようである。イスラエルは、市街地を攻撃することになったのは、ハマースが住宅地に武器を貯蔵し、そこからロケット弾を発射した結果であり、イスラエルの責任ではないと主張している。イスラエル側の主張に一定の妥当性はあるだろう。しかし、そのことでイスラエル軍の市街地に対する大規模な攻撃が容認されるわけではない。ガザの住民からすれば、ハマースもイスラエル軍も市民の安全を無視して戦闘を行なったことに変わりはない。

 

 国際社会は、ガザからイスラエルに対する無差別のロケット弾攻撃を非難しており、ロケット弾攻撃を阻止するためにイスラエル軍がガザへの報復攻撃を行なうことに一定の理解はある。しかし、自国側民間人死者の153倍(イスラエル側調査数字による)のパレスチナ人市民を殺害することは、イスラエルに寄せられた一定の共感が容認する正当防衛のレベルをはるかに超えている。イスラエルが非難されているのは、過剰な武力行使であり、武力行使での自制・抑制の欠落である。

 

 23日の米『NYT』紙の社説は、ハマースが独立調査委員会の勧告に従うことは期待できないとしても、イスラエルはその勧告に従い、市民の犠牲を避けるためにガザに対する攻撃のやり方を修正する義務があるだけでなく、そうしたいと望むべきであると主張した。24日のイスラエル『ハアレツ』紙は、ハマースではなく、イスラエルが民間人1462人(3分の1は子供)を殺害したことで、ガザはまさにイスラエルの存在に係る脅威となった論評している。米国とイスラエルの良識派の新聞が懸念するのは、イスラエルが国際法を遵守する民主主義国家と見なされなくなることである。その懸念は、イスラエルにとって、ガザのハマースのロケット弾の脅威よりはるかに深刻な問題である。

(中島主席研究員)

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