中東かわら版

№46 サウジアラビア:副皇太子のフランス訪問

 フランスを訪問中のムハンマド・サルマーン副皇太子は、6月24日、オランド大統領と会談し、総額120億ドルに及ぶ各種契約を締結することで合意した。両国外相の共同記者会見において、ファビウス仏外相は、同契約にはエアバス社のH145ヘリコプター23機の購入(約5億ドル)が含まれていると述べたほか、サウジアラビアは原子炉2基の建設にあたりフランスにフィージビリティスタディ(実行可能性調査)を依頼する計画があることを明かした。『Al Arabiya』は、これら直接購入の約10億ドルを除いた残り110億ドル分については、(サウジからフランスへの)直接投資の形式をとる見込みであると報じた。

 

評価

 今回の合意が象徴するように、フランスと湾岸諸国の関係は急速に深まりつつある。フランスは欧米諸国の中でも明確にシリアやレバノン、イエメンにおけるイランの役割を繰り返し批判してきており、イランとの核交渉においても他の交渉国より強硬な立場を維持していると見られている。GCC・米国キャンプ・デービッド会合に先立つ5月5日に開かれたGCC首脳会談には、オランド大統領が欧米諸国の首脳として初めて参加し、中東の安定のため、フランスとGCCが共同して行動していくことが確認された。オランド大統領は会談の前にカタルを訪問し、カタルへのラファール戦闘機24機の売却に関する契約に署名したことでイランから批判を受けるなど、湾岸諸国寄りの立場を鮮明にしている。

 先の副皇太子によるロシア訪問同様「サウジアラビア:副皇太子のロシア訪問」『中東かわら版』No.44(2015年6月22日)を参照)、湾岸地域における米国の影響力が減退する中、パートナーの多様化を図りたいサウジアラビアと、湾岸地域への影響力向上と経済的な利益の獲得を期待するフランスとの利害関係は一致するところが多い。交渉や契約の詳細は明らかではないが、先のロシア訪問と比べても、軍事・原子力といった分野でより踏み込んだ発言が両国外相から出ていることは、サウジ・フランス関係の深さを示していよう。

 他方、フランスが湾岸地域における米国の役割を代替する可能性は乏しく、フランス側にもそのような意思はないだろう。フランスはUAEに常駐の軍事基地を有し、数百人規模の第13外人准旅団を駐留させているが、バハレーンに駐留する米第5艦隊、カタルに設置されている米中央空軍前線司令部のような作戦の中心となるような機能がUAEに駐留するフランス軍にあるわけではない。現在、米軍はサウジ主導の対イエメン空爆の兵站支援をしているが、近い将来にフランス軍がこのような任務を請け負うことは想定し難いといえる。

(研究員 村上 拓哉)

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