中東かわら版

№45 シリア:アメリカ国防省がシリアの武装勢力に給与を支払い

 2015年6月22日付『ロイター』によると、アメリカの国防省は同国が「イスラーム国」対策に充てる要員として訓練しているシリアの武装勢力の者に対し、給与を支払っていることを認めた。給与は月額250ドル~400ドルの間で、個人の能力、実績、地位などによって決まる。給与の支払いを受けている者の人数は不明であるが、現時点で200名以上戦闘員が訓練を受けており、さらに1500名が訓練対象者となるために必要な身元調査を終えた模様である。なお、アメリカ軍の発表によると、訓練に志願した者の人数は、6000名ほどである。このような実態は、アメリカ政府・軍が計画していた「穏健な」反体制派育成が想定したほど進んでいないことを示している。

 一方、アメリカ軍の発表によると、数週間訓練を受けた後に消息不明となる者、訓練をやめる者も少なからずいる模様である。これについては、アメリカ軍が訓練対象者に対し「シリア政府軍とは戦わない」と誓約させていることに反発して集団脱走があったとの報道も見られる。アメリカ軍は、訓練対象者が誓約すべきことは「人権の尊重、法の支配の尊重」だけであるとして、上記報道を否定している。

評価

 アメリカがシリアにおいて「イスラーム国」と地上で戦う戦闘員を育成する計画は、これまでも遅れや不備が指摘されていたが、今般の報道はより具体的な数字を挙げて計画の遅れを伝えた。注目すべき点は訓練対象者に給与が支払われている点であるが、訓練終了後に彼らが実戦に投入された後も支払いが続くようであれば、支払いを受ける者たちは「穏健な」反体制派の戦闘員というよりはアメリカの傭兵と呼ぶべき存在となろう。これらの者たちには、アメリカ政府・軍の定める規律や行動指針に従うことや、アメリカの政策に奉仕することが求められることになるだろうが、これが「穏健な」武装勢力の行動様式と必ずしも一致しないが故に途中で訓練を放棄する者が出ていると思われる。その上、志願者の身元確認のための情報も不足している模様であるため、訓練対象者の中に「イスラーム国」や「ヌスラ戦線」のようにアメリカが討伐する対象としている団体の支持者や構成員が、装備の獲得や軍事技術の取得、さらにはスパイとして浸透することをどのように防止するかも重要な課題であろう。

 今般明らかになった月給の支払額は、「イスラーム国」がシリア人戦闘員に提供している便宜(月給400ドルと、家屋や車、燃料などの提供)に比べてよい待遇だとはいえない。「イスラーム国」の戦闘員の全てが高待遇を受けているわけではないだろうが、シリアで反体制武装勢力の末端の戦闘員となっている者たちは、組織への帰属意識や思想・信条的な確信が薄弱で、目先の利益に応じて安易な移籍を繰り返すことで知られている。このような事実は、アメリカだけでなくトルコ、サウジ、カタルの様な反体制派を援助する諸国にとって、相応の利益や便宜を供与して戦闘員をつなぎとめ続けなくてはならないことを意味する。実際、「イスラーム国」、「ヌスラ戦線」、その他武装勢力諸派が戦果を上げられるかは、外国からの支援を含む、彼らがシリアの外から調達することができる資源の多寡によって決まる傾向が強まっている。また、最近アメリカ軍とも実質的な「共闘」を強めている「ヌスラ戦線」をはじめとする反「イスラーム国」のイスラーム過激派諸派は、アル=カーイダと親密な関係にあり、外国人戦闘員を受け入れている団体であることから、これらの諸派までもが諸外国による援助の対象となっている現状は極めて危険である。以前からシリア国外で調達する資源を活動の柱としてきた「イスラーム国」に加え、「穏健な」反体制派やアメリカなどが実施する訓練の対象者までもが外部から賃金などの支払いを受ける実態が拡大・固定化するようなことになれば、シリアの反体制派が事実上の傭兵としてシリアやシリア人民の利益を省みない外部の主体の利益に奉仕することになり、シリア紛争は一層深刻な状況に陥る可能性が高い。

(髙岡上席研究員)

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