中東かわら版

№44 サウジアラビア:副皇太子のロシア訪問

 6月17日から18日、ムハンマド・サルマーン副皇太子は、ジュベイル外相、ヌアイミー石油相らとロシアを公式訪問した。同副皇太子は、プーチン大統領と会談し、イラン情勢、イエメン情勢、シリア情勢などについて協議した。また、原子力の平和利用、原子力技術、石油、宇宙、投資、軍事技術など6つの分野で合意が結ばれた。

 

評価

 副皇太子のロシア訪問は、2011年以降、もっともハイレベルの人物による往訪であるとともに、2015年1月のサルマーン国王就任以降、初の要人訪問でもある。サウジアラビアとロシアは、シリア情勢を巡り、サウジが反体制派側に、ロシアがアサド政権側に与したことから、長らく関係が冷却化していた。また、石油価格、イエメン情勢においても立場を異にし、両国間には複数の外交的な対立が発生していた。

 今回の訪問が、サウジ・ロシア関係の改善の嚆矢となることに疑問の余地はない。問題はこれがサウジの「米国離れ」を意味するかどうかである。イラン核交渉の進展を見守ってきたサウジ政府は、たびたび米国の中東情勢への関与の低下に警告を鳴らしてきた。5月のキャンプ・デービッド会合も、そのようなサウジの懸念を払拭するため、米国が安全保障面での関与を継続することを再保証するものであった。しかしながら、覇権国としての米国の影響力の減少は既に避けがたい流れとなっており、サウジ政府は米国以外との協力も模索するようになっている。ジュベイル外相が、ロシアの『RT』のインタビューにおいて、「我々がロシアの兵器を購入することを阻むものは何もない」と発言したのも、今後の可能性の一つとして、ロシアとの協力を強化していくことも選択肢にあるという意味合いで述べたものだろう。特に、原子力分野においてロシアと合意が結ばれたのは、イランと「同等の権利」を要求していたサウジアラビアにとって、象徴的な成果となった。また、ウクライナ情勢を巡ってロシアへの制裁が強まるなか、サウジがロシアに接近したという事実も、欧米諸国にとって看過し難い動きであろう。

 しかしながら、今回のように個別案件について協議することはあったとしても、サウジにとってロシアが米国を代替するパートナーとなる可能性はほとんどない。米国の対応に不満はあったとしても、現在の米国以上にサウジに安全保障を供与できる国家は存在しないからである。また、シリア、イラン情勢において、ロシアがサウジ側に与することもないだろう。イエメン情勢については、ロシアが親サウジ姿勢を示すことは容易であるが、現地の戦闘状況の大勢に影響はないだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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