中東かわら版

№31 パレスチナ:深まるガザの経済的困窮

 

 ガザを実質統治するハマースは、4月中旬に約400品目に対して新たな課税を行なうことを決定した。6月1日、米国『NYT』紙は、新課税の導入により、1キロの肉で約50セント(約60円)、シャンプ-が約25セント(約30円)値上がりし、失業率が44%に達し、すでに経済的困窮状態にあるガザ住民へのさらなる負担となっていると報道した。ハマースが新しい税金を導入した理由は、2014年6月に統一政権が成立した後、ハマースとパレスチナ自治政府間で最大の懸案になっているガザのハマース系公務員(約4万人)の給与用の資金を確保するためである。統一政権は、ガザのハマース系公務員約4万人に給与を支給していない。統一政権が成立した段階で、ハマース政権は同4万人への給与支払いができなくなっていた。そのため、これは政治問題であると同時にガザの社会問題になっている。

 こうした状況の中、5月中旬には、ガザにある複数の銀行が、海外からの慈善活動への資金送金を停止したと報道されている。その結果、働き手を失った家族が生活費を受け取れないケースもあり、銀行に対する経済的困窮者の抗議デモが起き始めている。理由は明確ではないが、ハマースが統治するガザの銀行に対する送金について米国の圧力があると報道されている。また『アルモニター』サイト(6月2日)は、イエメン紛争に対するイスラーム聖戦機構の立場に不満を持ったイランが5月から同機構に対する資金援助を停止したと報道した。同サイトによれば、イスラーム聖戦機構は、1980年代はじめの創設以来最大の財政危機に直面しており、戦闘員も含めたメンバーへの給与支払いができず、活動も大幅に縮小することを余儀なくされている。同報道が事実であれば、ガザ経済にさらなる悪影響を与える。 

評価

 失業率は4割を超え、ガザの住民の大半は国際機関の支援でかろうじて生活している。そうした状況にあるガザの経済がさらに悪化している。ガザ住民はこれまで驚異的な忍耐力を見せてきたが、それも限界があるだろう。ハマースがガザ統治を完全に手放すか政治的な立場を変えない限り、ガザへの経済封鎖の緩和はないし、復興作業も本格化しない。またガザでの最も即効的な雇用対策はイスラエルへの出稼ぎ労働の再開だが、ハマースの統治が続く限りこれもない。

 ガザ住民の間では、ハマースだけでなくパレスチナ自治政府に対する期待もないとも報道されている。まだ人数は多くないが、自殺する者やガザを出たい一心で衝動的にイスラエル側に密入国して逮捕されるパレスチナ人が増加傾向にある。またガザでは従来パレスチナ社会にはなかった過激な宗教勢力の活動も活発化している。6月2日には、ハマース治安部隊がサラフィスト組織の指導者を逮捕しようとして抵抗され射殺した。同人は「イスラーム国」と関係があったといわれる。最近ハマースですらが「無法者」と非難する過激なサラフィスト集団が生まれつつある。このようなイスラーム過激派が生まれる背景には、ガザ住民の絶望感がある。国連やEUは、ガザ住民の困窮の深まりに強い懸念を表明しているが、現在の状況が続けば、ガザ住民がいつ爆発しても不思議ではないだろう。

(中島主席研究員 中島 勇)

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