中東かわら版

№32 エジプト:2011年デモ隊殺害事件でムバーラク元大統領に再審判決

 2014年11月にムバーラク元大統領等に対して出された無罪の再審判決について、検察局が控訴していたところ(再審判決については、『中東かわら版』2014年12月2日付No.195を参照)、6月4日、破毀院(最高裁に相当)は、ムバーラク元大統領の2011年政変デモ隊殺害関与についてのみ再々審を命じた。再々審は11月5日に破毀院で行われ、これが同事件のムバーラク元大統領に対する最終判決となる。

 他方、2014年11月の再審判決では、元大統領の息子2人(アラーとガマール)、ハビーブ・アドリー元内相、内務省幹部6人に対しても、デモ隊殺害関与、公金横領、イスラエルへの天然ガス輸出に関して無罪判決が下されていた。しかし今回の判決では、これら被告の無罪判決に対する再審請求は棄却され、無罪が最終判決となった。

評価

 今回の判決により、2011年政変のデモ隊殺害関与事件に関してムバーラク元大統領のみ再審が認められ、他の被告については再審請求が棄却されたため、事実上の無罪確定となった。

 デモ隊殺害事件はこれまで4回の審理が行われ、判決が終身刑から無罪にまで変わってきた。2012年の第一審ではムバーラク元大統領に終身刑が言い渡されたが、2013年の控訴審では「手続き上の問題」が見受けられたとして再審理が命じられた。2014年11月の再審でも「手続き上の問題」により審理不可能と判断され、事実上の無罪となった。今回の判決はこの再審に対する控訴審であり、2度目の再審が命じられた。これ以上の再審は認められないため、ムバーラク元大統領に対するデモ隊殺害事件の判決は、次の破毀院のものが最終判決となる。

 2011年以降の移行過程において司法府は大きな政治的役割を果たしており、特に2012年以降は反ムスリム同胞団の姿勢が目立っている。クーデター後は、軍・警察がムスリム同胞団を治安面で取り締まる一方、司法府は同胞団の非合法化を司法面で支えてきた。一方で、ムバーラク時代の要人や警官に対する裁判では、ムスリム同胞団員に対する判決よりも刑期が軽い判決を出し、司法府は「旧体制派」を支持する勢力ではないかという見方も存在する。ムバーラク元大統領に対して言い渡された無罪判決も、このような文脈で解釈されることが多い。

 11月に破毀院での最終的な判決がどのようなものになるか注目されるが、もし元大統領を無罪放免とした場合、2011年革命の意義が改めて問われるだろう。しかし元大統領を含め旧政権関係者の裁判への関心が薄れるなか、無罪であれ有罪であれ、現在の政治過程に与える影響は限定的になるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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