中東かわら版

№30 サウジアラビア:ダンマームでの爆破事件

2015年5月29日、サウジの東部州のダンマームのモスク付近で爆破事件が発生、4名が死亡した。同日、インターネット上で「イスラーム国 ナジュド州」名義の犯行声明とされる文書が出回り、攻撃はアブー・ジャンダル・ジャズラーウィーによる「殉教作戦」で、ラーフィダ(シーア派の蔑称)多数を殺傷したと主張した。また、その後「イスラーム国 ナジュド州」の広報局名義で「預言者ムハンマドの半島から多神教徒であるラーフィダを追い出せ」との題名で13分19秒ほどの演説(発言者不明)も出回り、以下の通り主張した。

  • ラーフィダは多神教徒であり、これは殺すか追放するかしなくてはならない。

  • サルール家(サウード家の蔑称)はラーフィダを擁護している。彼らはイエメンとの間にひかれた人工的な国境をフーシー派から守ることができない。スンナ派擁護のためにサルール家は役に立たない。

  • 暴君とラーフィダと戦うため、「イスラーム国」に集結せよ。

地図:サウジの東部州

 

評価

 31日、ムハンマド・ビン・ナーイフ内相(皇太子)は「治安情勢は掌握している」と述べたが、22日のカティーフ地方での爆破事件に続き、油田地帯、及びバハレーンの対岸にあたる東部州の大都市であるダンマームでも爆破事件が発生し、「イスラーム国」名義の犯行声明が出回ったことは、サウジ当局にとってゆゆしき事態であろう。サウジの為政者たちにとって、事件の発生現場である東部州は同国の石油生産・輸送の中心地であり、「イスラーム国」が「ラーフィダからスンナ派を守る」ことにおいてサウード家は役に立たないと主張し、王家に対する非難を強めていることは見過ごしにはできないだろう。

 

 今般出回った演説には、サウジ当局が自国内でラーフィダの脅威からスンナ派を守ることに失敗すると共に、イエメンのフーシー派(「イスラーム国」から見ればラーフィダの一派)の脅威への対処に失敗していると主張している。これは、中東における政治的・外交的な競合を宗派主義的言辞で正当化し、「スンナ派の盟主・擁護者」であるかのように振舞う一方で、「イスラーム国」による作戦行動から「ラーフィダ」を保護しようとするサウジの政策の矛盾を、「イスラーム国」なりに告発したものである。シリア、イラク、イエメンでの紛争を宗派主義的論理で解釈する一方、自国内の差別や矛盾にはふたをしているとの非難を受けたサウジ当局が、「イスラーム国」やその支持者たちに厳しい態度に出るかが今後の注目点であろう。

 

 これまで、「イスラーム国」はサウジをはじめとする資源の調達地としている国々で治安上の騒擾を引き起こさないかわりに、各国でさしたる取締りを受けることなくヒト・モノ・カネを調達し、それをトルコ経由でシリアやイラクに送り込んできた。このため、今回のサウジでの攻撃のように、サウジにおける資源の調達はもちろん活動や存在そのものが禁圧されかねない行為に出たことから、「イスラーム国」内部での戦術や方針の変更或いは変更を巡る不和が生じている可能性がある。また、サウジ当局が「イスラーム国」に対する取締りを強化した場合は、従来サウジ国内で資源の調達に従事していた「イスラーム国」の組織やネットワークが当局との対決に転じるため、少なくとも一時的にはサウジ国内の治安も悪化することが予想される。いずれにせよ、従来有力な資源調達地として利用してきたサウジで攻撃を繰り返した以上、「イスラーム国」の戦術の変化を想定すべき局面が訪れていることは確かであろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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