中東かわら版

№13 アフガニスタン:最近の治安情勢

 アメリカ政府は、2015年1月にパキスタンとアフガニスタンとの国境地域でアメリカ軍が行った作戦で、アル=カーイダに囚われていたウォーレン・ワインシュタイン、(アメリカ人。2011年8月にパキスタンで誘拐された。)、ジョバンニ・ロベルト(イタリア人。2012年にパキスタンで消息を絶った。)の2名が死亡したと発表した。また、この作戦で、アル=カーイダの広報部門で活躍したアダム・ガダン(通称:アッザーム・アムリーキー)を殺害したことも発表した。

 他方、4月22日(日本時間)にはターリバーンが声明を発表し、24日朝から春期攻勢を開始すると宣言した。声明は、今期の攻勢の第一の標的として「十字軍占領者、特に彼らが常駐する基地、諜報拠点、外交拠点」を挙げ、「諸都市の内部でのゲリラ戦が最重要の戦術となるだろう」と表明した。

写真:アダム・ガダン(2010年10月の動画)

評価

「イスラーム国のホラサーン州」を名乗る集団がアフガン東部のジャララバードで大きな被害が出た爆破事件(4月18日)を実行したと主張するなど、アフガンの治安情勢には不安要因が多い。そうした中、同地で活動するアル=カーイダに対するアメリカ軍の作戦で、人質2名とアダム・ガダンが死亡したことは大きな事件である。人質2名の死亡は軍事作戦の失敗とみなされるであろうが、問題はアル=カーイダの広報部門で英語による発信の主力を担っていたガダンが死亡したにもかかわらず、同派から何の発表もないことである。通常、アル=カーイダなどは重要な活動家が死亡した際はこれを「殉教」として自らの広報や更なる支持の獲得に利用するが、ガダンほどの重要な活動家が死亡し、さらにアメリカ軍の失敗とも言える外国人人質2名死亡という結果さえ伴っているできごとについて、アル=カーイダが全く広報を行っていないのである。この点は、最近アル=カーイダが広報活動の場としていたインターネット上の掲示板サイトが著しく衰退していること、アル=カーイダの広報製作部門である「サハーブ」名義での情報が2014年秋以降ほとんど発信されていないこととあわせ、同派の広報機能が壊滅状態にあることを示唆している。また、最近ではアメリカ軍の作戦により「アラビア半島のアル=カーイダ」の幹部2名が相次いで殺害されており、アル=カーイダに対するアメリカ軍の攻撃は順調に成果を挙げている。今やアル=カーイダにはアイマン・ザワーヒリー以外に国際的に知名度のある活動家がおらず、広報部門での実際の政策・発信の機能も著しく衰えていることから、その行く末が注目される。一方で、アメリカ軍による軍事行動は「イスラーム国」の広報活動や機能にさしたる影響を与えていない。現在、アル=カーイダはアラビア半島やマグリブのものも含め、「イスラーム国」と威信や資源の獲得競争をしている状況にあるため、現在のような状態はアメリカによる「イスラーム国」への援護射撃としての意味合いすら帯びている。

 ターリバーンによる春期攻勢は、4月下旬から5月上旬にかけて毎年宣言されるものであり、攻勢そのものは目新しいことではない。但し、2014年の春期攻勢では占領軍と契約を結んでいる軍事・民間業者をも攻撃対象としていたところ、今般の攻勢では業者についての言及がないなどの違いが見られる。ここで重視すべき点は、戦術として都市でのゲリラ戦を重視すると表明している点であり、ターリバーンが外国軍・外交団などを主な対象とする攻勢でゲリラ戦を重視するということは、従来も同派が度々引き起こしてきたカブールにある各国大使館や外国人が利用するホテルなどへの襲撃・立てこもり事件の頻度が上がることが懸念される。

(イスラーム過激派モニター班)

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