中東かわら版

№12 サウジアラビア:「決意の嵐」作戦の完了・「希望の再生」作戦の開始

 4月21日夜、イエメンへの空爆を実施していたサウジアラビア主導の連合軍は、「決意の嵐」作戦は目標を達成したため同日をもって作戦完了とし、新たに「希望の再生(Renewal of Hope)」作戦を開始するとの声明を発出した。声明文の要旨は以下のとおり。

 

Ⅰ.「決意の嵐」作戦は、以下の目的を達成した。

    1. イエメン大統領の要請に応え、フーシー派及びサーリフ元大統領に忠誠を誓う軍の攻勢に対抗し、イエメンでの支配を広げようとする外部勢力を退けた。
    2. イエメンの正統性を保護し、イエメンの他の地域での攻勢を抑止した。
    3. フーシー派やサーリフ元大統領に忠誠を誓う軍が保有する重火器や弾道ミサイルを破壊し、サウジアラビアおよび隣国への脅威を除去した。
    4. テロ組織の脅威を撲滅すべく働いた。
    5. GCCイニシアティブに基づく政治移行過程の再開の素地を整備した。

 

Ⅱ.(ハーディー大統領の正当性を認め、フーシー派への武器禁輸を決定した)国連安保理決議2216号が発出されたことは勝利である。その結果として、ハーデ ィー大統領は、新たな「希望の再生」プロセスを開始する段階に来たとのメッセージを4月20日に発出した。

 

Ⅲ. ハーディー大統領の要請に応え、連合国は、「決意の嵐」作戦を本日で完了し、以下の目標を達成するため「希望の再生」作戦を開始する。

    1. 国連安保理決議2216号及びGCCイニシアティブ、国民対話の結論に基づく政治移行過程の早期再開
    2. 市民の保護の継続
    3. テロリズムとの戦いの継続
    4. 外国人の避難の促進、イエメン人への人道・医療支援の強化、国際社会による人道支援の実現の継続
    5. フーシー派およびその支援者によるあらゆる軍事行動への対抗、軍事基地から略奪したり海外から密輸されたりした兵器の使用の阻止
    6. フーシー派及びサーリフ元大統領への武器移転を阻止するための国際的な協力の確立

 

 

評価

 今回の「決意の嵐」作戦完了宣言は、前触れもなく、突如として発出されたものであった。イエメンでの戦況に大きな動きがあったわけでもなく、このタイミングで空爆の停止が決定された理由は不明である。声明文では5つの目標が達成されたと述べられているが、軍事作戦における目標と政治的な目標が混在しており、それぞれ具体的にどのような意味を有しているのか、極めて曖昧である。掲げられた目標の中で、軍事作戦上一定の成果をあげたことが確認できるのは、1.③の武器の破壊であり、フーシー派やサーリフ元大統領派が保有する航空戦力や対空ミサイル能力が打撃を受けたことは間違いないだろう。他方、1.②のイエメンの正統性の保護や、1.⑤の政治移行過程の再開の素地整備に関しては、何をもって目標が達成されたとしているのか不明である。
 新たに開始される「希望の再生」作戦に関しても、政治目標と軍事目標が混在しており、例えば3.①の政治移行過程の早期再開のため、連合軍がどのような任務にあたるのかは明らかではない。国際社会から要請のあった人道支援の提供や、武器の密輸の監視については、連合軍も含めた国際社会の連携によって対処することが想定されよう。声明文発表後に行われたアシーリー報道官の記者会見では、今後もフーシー派による軍事行動を阻止していくと述べられていたが、これはフーシー派が動かない限り、連合軍による軍事作戦は行われないということを意味しているのかもしれない。
 今回の空爆がイエメン情勢へ与えた影響は限定的であり、この点でサウジアラビアが得た軍事的な成果は乏しいものの、地域諸国の支持を集めることに成功し、国連安保理において決議を可決させたという観点からは、外交的な勝利を達成したと言うことも可能であろう。また、早期に軍事作戦を停止したことは、泥沼化を避けるという意味では賢明な選択であった。しかしながら、肝心のイエメン情勢において、フーシー派の勢力が首都サナアを制圧している状況に変わりはなく、サウジが期待する国民対話が再開される見通しもない。ハーディー大統領は引き続きリヤードに滞在しており、アデンの治安も十分に確保されていない状況において、イエメン情勢がサウジが望む方向で推移する可能性は低い。

(研究員 村上 拓哉)

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