中東かわら版

№11 イラク・シリア:「イスラーム国」の生態(女性戦闘員2)

 前回(かわら版No.245)紹介した「イスラーム国」の「ヒスバ」(宗教警察)に属する「ハンサー部隊」について、各種報道で新たに要旨以下の通りの情報がみられた。

  • 構成:人数は1100名程度(多くは非シリア人。シリア人は20名ほど加入)。現在、一般シリア人女性の勧誘が「最大の戦い」のために行われている。5~6名の小隊で活動している。「ハンサー部隊」の中でも有名な部隊として、ウンム・アマーラ隊(9割以上が外国人。指導者はパキスタン系イギリス人のアクサー・ムハンマド)、ウンム・ミクダードゥ隊(サウジアラビア人女性が指揮)、ウンム・リヤーン隊(チュニジア人女性が指揮)がある。
  • 活動内容:占拠地域の監視の他、女性医師や公共・私営診療所に隊員を派遣し業務監視を行う。違反者に対する処罰として、アバーヤを着ない、あるいはハイヒールを履く女性に鞭打ち40回、取調べから逃げようとする女性には鞭打ちを60回行う。
  • 訓練:アラビア語授業(非アラビア語話者向け)及び銃火器訓練(約4週間、訓練中は70ドルの手当がつく)を受ける。なお、訓練後は武器の携帯が許可され、戦線に行く者と占拠地域の監視を行う者に分かれる。
  • 待遇:欧米出身者が優遇されるが、地元社会との意思疎通のためアラビア語を話すシリア人女性が重要視される。しかし、日本人を含むアジア系外国人の給与は低い。月給はおよそ700から1500ドル(欧米出身者の給与が最も多いがシリア人女性の給与も同等)。なお、1500ドルは「イスラーム国」の男性戦闘員の給与の2倍とされる。また、隊員の福利厚生として、自動車の運転、病院での優先的診察、「イスラーム国」への忠誠を拒否した富裕層から奪った家の提供などがある。
  • 逃亡のきっかけ:夫(戦闘員)の死亡や不在(2~3日に1回の帰宅)、違反者への処罰に対する後悔の念(高齢者に対する鞭打ち)、「イスラーム国」戦闘員との愛のない結婚など。逃亡先はトルコが比較的多く、難民ルートが使用される例がある。

評価

 

 

 

 上述した「ハンサー部隊」の活動は、町に設置する看板や住民に対して配布される冊子の活動などと平行して行われている。広報活動に加えて、外国人戦闘員に対するアラビア語境域や武器訓練を行いつつ、地元の女性を取り込んでいくことで、効果的な統治を実現しようとしているようである。

 上記女性戦闘員の活動は、広報が活発である分「イスラーム国」の統治に具体的なイメージを与えてくれるが、その実態は刹那的で脆い。 

 実際、こうした「ハンサー部隊」の活動が地元住民に受容されているとは言い難い。男性戦闘員との結婚の強要に対して、指輪をはめて既婚者を装う女性もいる。さらに、占拠地域の女性は外出時の制約や市街に出ることを禁止されているとされ、今後もこうした規制に対して組織内部や地元住民からの反対が起こることも予想される。

写真:イラク・ニナワ県、「正当なヒジャーブの条件」と題された看板設置の図

 一方、女性戦闘員の中には、女性に対する刑罰の執行に後悔して逃亡する者もおり、「ハンサー部隊」の活動が占拠地域の効果的な統治のために機能しているとは、必ずしもいえない状況である。結婚に消極的な女性戦闘員もいることから、男性戦闘員の士気低下も懸念される。また、仮に己の意思で「結婚ジハード」のために移住して、男性戦闘員と結婚できたとしても、夫は中々家にいないか戦闘で死亡する。妻の役割を果たすこともできず、自由に外出できない生活が待っているのである。

 「ハンサー部隊」に限って言えば、逃亡する女性や女性戦闘員の発信する情報は今後益々増加すると考えられる。その場合、適切な情報の拾捨選択が重要となってくるだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP