中東かわら版

№10 イスラエル:パレスチナ自治政府の税金を送付

4月20日、イスラエルは停止していたパレスチナ自治政府の税金を送付した。送金したのは約5億ドルで、2014年12月から2015年3月までの4カ月分。2015年1月3日、イスラエルはパレスチナが国際刑事裁判所への加盟申請を行なったことへの報復措置として、イスラエルが代行して徴収しているPAの税金の送金を停止した。パレスチナは4月1日に国際刑事裁判所のメンバーになったが、イスラエルはその直前の3月27日、停止していた税金の送付を開始すると発表した。イスラエル側は、軍と治安機関がPAの財政危機が続くと西岸の治安が悪化することを懸念したことを送金再開の理由とした。送金再開を発表したイスラエルであるが、PAがイスラエルの企業や公社に支払っていない電気・水道料金を差し引いた額を送金する立場を取った。パレスチナ側は全額の送金を求めたため、送金実施が遅れていた。両者は、4月18日に送金額について合意している。20日には、イスラエルの裁判所がイスラエル電力公社は、PAの未払い料金についてPAに送付する税金に対して直接請求する権利はないとの判断を示し、電力公社は請求要求を取り下げている。

 保留した税金の送金を受けてパレスチナ自治政府は、4割のカットを行なっていた公務員の給与補填を22日から行なうと発表した。今回は4カ月分の税金が送金されたが、イスラエルは2015年4月以降の税金送金を通常通り行うのか、再度停止するのかはっきりさせていない。

評価

 イスラエルがパレスチナ自治政府への税金送付を停止するのは珍しくはなく、定型化した制裁措置として、今後も繰り返されるだろう。ただ長期にわたる送金停止がPA財政を破綻させることをイスラエルは承知しており、一定期間に限定された制裁措置になっている。今回の送金再開が、過去4カ月の税金に限定される場合、イスラエルの制裁措置は今後も継続され、送金は数カ月ごとになる可能性がある。

 パレスチナの国際刑事裁判所加盟は阻止できないことはイスラエルもわかっていたと思われるが、送金再開の発表はやや唐突だった。似たような唐突な動きとして、4月8日パレスチナ警察がエルサレムとラマラの間にあるアブ・ディスなどの地域に配置された。これらの地域はイスラエルの定義ではエルサレムではないが、パレスチナ人たちは東エルサレムと見なす地域であり、オスロ合意での区分ではイスラエル軍とパレスチナの共同管理地域(B地域)になる。パレスチナが将来の首都を東エルサレムに設置したいと希望していることは周知の事実であり、それをイスラエルが阻止したいのであれば、パレスチナ警察の「東エルサレム」展開は絶対に認めるべきではない。しかし、そうした地域へのパレスチナ警察の展開が唐突に実施され、イスラエル側からもパレスチナ側からも十分な説明がなされていない。『エルサレム・ポスト』紙(4月15日)は、パレスチナ警察のエルサレム近郊への展開理由について、同紙もよくわからないとしている。東エルサレムや西岸での衝突や暴力事件が散発的に継続しているのは事実であるが、同時にイスラエル軍は西岸での規制を確実に緩和しつつある(2015年3月13日『中東かわら版』No.268「イスラエル:対パレスチナ規制を緩和」参照)。こうした一連の緩和措置についてイスラエル側は明確な説明をしていない。

(中島主席研究員 中島 勇)

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