中東かわら版

№104 イエメン:サナアへの爆撃で死傷者多数

 2016年10月8日、サナア市内の葬儀の会場が爆撃を受け、140人が死亡、500人以上が負傷した。サウジが率いる連合軍は当初は自軍の空爆であることを否定したが、この事件を契機にアメリカがサウジ主導の連合軍への支援の見直しを表明したことを受けアメリカの専門家を交えた調査を行うと発表した。

 なお、国連の発表によるとイエメンでは連合軍による介入開始(2015年3月)以降民間人約4000人が死亡、7000人が負傷しているとされる。また、国連食糧・農業機構(FAO)によると、2015年3月以降275万人が避難生活を送っている上、総人口約2600万人の半数以上にあたる1410万人が十分な食糧を確保できない状態にある。こうした状況に対しFAOは1800万人を対象に食糧援助を行うため2500万ドルの拠出を呼びかけているが、資金は大幅に不足している。

 

評価

 イエメンでは、2015年3月に連合軍が介入して以来しばしば民間人や国際機関への爆撃事件が発生してきた。また、報道上はほとんど注目されていないが、かねてからの食糧不足や紛争に伴う避難民の発生や人民の生活の困窮も深刻化し、サナアではコレラの蔓延も取り沙汰されている。紛争の調停については、国連のウルド・シャイフ特使が仲介してクウェイトにて和平協議の再開のための試みが続いているが、紛争当事者間の相違は埋まらず協議は頓挫している。イエメン紛争については、EU諸国への移民・難民の殺到や「イスラーム国」の活動のような報道機関の関心を惹くできごとが少ないため、紛争や被害の実態について国際的に取り上げられる機会が少ない。また、被害の実態を「現地情報」として発信する活動もシリアでの紛争に比べて低調である。人民の被害や苦境を発信する機会や能力を欠いているが故に、イエメン社会がおかれている状況は他の国際紛争に比して厳しいといえるだろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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