中東かわら版

№4 イラン:P5+1との核交渉で枠組み合意

 スイスのローザンヌで3月26日から継続していたイランとP5+1との核交渉は、4月2日、最終合意に向けた枠組みで合意した。イランは、自国が保有する遠心分離機を3分の2削減することで合意した他、研究・開発分野を含めた広範な査察、10年から25年を期限とする核関連活動の制限措置を受け入れた。P5+1側は、過去の国連安保理決議による対イラン制裁の解除を決定し、合意違反があった場合には過去の制裁を再度課すとした。

米国務省が発表した最終合意文書となる「包括的共同行動計画(JCPOA)」の草案の概要は以下のとおり。

濃縮

遠心分離機約19,000基を6,104基に削減。うち5,060基のみ稼動(10年間)。遠心分離機の型はIR-1型。

濃縮率は3.67%までとする(15年間)。

15年間は、現在保有する低濃縮ウラン10,000kgを300kgまで削減し、濃縮率は3.67%まで下げる(15年間)。

超過する遠心分離機及び濃縮施設はIAEAが監視する場所に置かれる。

新たなウラン濃縮関連施設を建造しない(15年間)。

核兵器製造にかかる時間を1年以上にする(10年間)。

フォルドゥ
施設

施設でウラン濃縮を行わない(15年間)。

施設は、核・物理・技術・研究センターに転換する。

ウラン濃縮に関する研究開発を施設では行わない(15年間)。

施設で核分裂性物質を所有しない(15年間)。

施設にある遠心分離機及び設備は3分の2を撤去し、残された遠心分離機はウラン濃縮を行わない。全ての設備はIAEAの監視下に置かれる。

ナタンズ
施設

濃縮活動はナタンズ施設のIR-1型遠心分離機のみで行う(10年間)。

IR-2M型の遠心分離機1,000基を撤去し、IAEAの監視する場所に置く(10年間)。

IR-2, IR-4, IR-5, IR-6, IR-8型の遠心分離機ではウラン濃縮を行わない(10年間)。合意によって決められた期間は研究開発のみに使用する。

濃縮及び研究開発は核兵器製造にかかる時間を1年以上とする範囲でのみ認める(10年間)。その後は追加議定書に基づき、濃縮及び研究開発計画をIAEAに提出する。

査察

IAEAはナタンズ・フォルドゥを含む全ての核関連施設へ定期的にアクセスする。

査察官は核関連物質のサプライ・チェーンにアクセスする。

査察官はウラン鉱山にアクセスし、ウラン精製工場で継続的な監視をする(25年間)。

査察官は遠心分離機の回転胴およびベローズの生産・貯蔵施設を継続的に監視する(25年間)。遠心分離機製造拠点は凍結され、継続的な監視を受ける。

フォルドゥ・ナタンズから撤去された遠心分離機および濃縮設備をIAEAによる継続的な監視下に置く。

特定の核関連物質・技術の販売・供給・移転の監視および許可の発出に関する専用調達チャンネルを設立する。

イランはIAEA追加議定書に署名する。IAEAのアクセス強化と、申告・未申告の施設を含む核計画の情報の提供をする。

濃縮、再処理、遠心分離機製造施設の疑いがある国内のあらゆる箇所へのアクセスをIAEAに許可する。

保障措置協定の補助取極の修正規則3.1を履行する(新施設の建設の事前申告)。

核計画の軍事分野に関するIAEAの懸念に対処する措置を履行する。

原子炉
再処理

アラーク重水炉を、兵器級プルトニウムは産出せず、平和的な核研究とアイソトープの生産を行うように設計変更する。

原子炉の主要部分は破壊するか国外に持ち出す。

使用済み燃料棒を国外搬出する(原子炉の寿命が尽きるまで)。

使用済み燃料棒の再処理およびこれに関する研究開発を行わない。

アラーク重水炉に必要な量を超える重水を蓄積せず、超過分は国際市場で販売する(15年間)。

新たな重水炉を建設しない(15年間)。

制裁

上記措置が履行された場合、制裁は解除される。

米国・EUによる核関連の制裁はイランが全ての重要な措置を履行したとIAEAが確認した後、停止される。

米国による核関連の制裁の構造は合意期間においても維持され、措置の重大な不履行が発生した場合、再度凍結していた制裁を課す。

全てのイラン核関連の国連安保理決議は、全ての重要な懸念(濃縮、フォルドゥ、アラーク、軍事利用、透明性)に対処されたときに解除される。

新たな国連安保理決議を発出し、重大な技術移転や活動については制限する。

JCPOAの履行に関する意見の不一致を解決するための紛争解決プロセスを指定する。

上記の方法で解決できなかった場合、全ての国連による制裁が再度課される。

テロリズム、人権侵害、弾道ミサイルに対する米国の対イラン制裁は維持される。

段階

10年間、濃縮能力及び研究開発は核兵器製造にかかる時間を1年以上となる水準に制限する。その後は、長期的な濃縮、研究開発計画をP5+1と共有する。

15年間、新たな濃縮施設、重水炉の製造を行わない。また、濃縮ウランの保有量を制限し、透明化を強化する。

重要な査察・透明化確保措置は15年間を超えても継続する。IAEA追加議定書の遵守は永続的なものであり、ウランのサプライ・チェーンへの厳密な査察は25年間継続する。

核計画の制限期間の後も、イランはNPTの加盟国であり続ける。

 

評価

 2013年11月に暫定合意し、2014年1月から「共同行動計画(JPOA)」に基づいて交渉を行っていたイランとP5+1は、2014年7月と11月に2度の交渉延長を経て、ついに枠組み合意に至った。2014年11月に交渉延長が決定された際には、2015年3月末までに枠組み合意、6月末までに最終合意を目指すと宣言していた。3月26日から連日行われた交渉では、期限である3月31日を過ぎても、1日、2日と延長され、合意に向けた交渉が続いていた。

 2013年11月の暫定合意及び2014年7月までの交渉において、イランにウラン濃縮の権利を認めること、アラーク重水炉の設計変更などでは合意が形成されていたが、ウラン濃縮能力の根幹である遠心分離機の数をどこまで制限するか、核計画の制限期間を何年に設定するか、そして制裁をどのように解除するかを巡って意見が対立してきた。今回の枠組み合意の内容を見る限りでは、過去に19万基分の濃縮能力や10年以内の制限期間をイランが主張していたことを考えると、イラン側が大幅に譲歩したように見える。査察の分野についても、広範な領域にわたって精査が行われることになっており、これが支障なく実行に移されるのであれば、イランの核開発計画の透明性は格段に向上しよう。また、使用済み燃料棒の国外搬出を認めたことは、これまでイランが要求してきた核燃料サイクルの確立を放棄することと同義である。

 若干の期限の延長はあったものの、枠組み合意に至ったことは画期的なことである。しかしながら、6月末の最終合意に向けて、細部の議論を詰めていく必要性が残されており、今後の展望について楽観視することはできない。特に、双方の国内の反対派は、合意への反発を強めていくだろう。核交渉そのものに反対するイスラエルは、既にネタニヤフ首相が反対の意向を表明している。同じく核交渉の結果イランが地域で台頭することを恐れるサウジアラビアは、サルマーン国王が「最終合意に至ることを望む」と述べたと伝えられているが、交渉の推移を懸念して見ていよう。今後、最終合意に向けて様々な動きが生じる可能性があり、情勢は引き続き流動的である。

(研究員 村上 拓哉)

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