中東かわら版

№3 中東情勢研究会:米国の対「イスラーム国」軍事作戦の評価

開催日時:平成27年3月27日(金)18時~20時、於:中東調査会

報告者: 溝渕正季(名古屋商科大学専任講師)

報告題目: 米国の対「イスラーム国」軍事作戦をどう評価するか

出席者:青山弘之(東京外国語大学教授)、他8名、中東調査会:村上、髙岡

概要

*溝渕講師より、以下の通り報告した。

1.本報告の目的は、アメリカなど有志連合による「イスラーム国」に対する軍事作戦である「確固たる決意」作戦の政治・戦略的背景と意味合い、作戦の妥当性、目標の達成度を分析し、今後の推移を展望することである。現在の「イスラーム国」の目標は、「支配領域の拡大と現在の支配地域における支配の強化」と考えられる。それに対し、アメリカなどの目標は「(「イスラーム国」の)領域的拡大の阻止と現在の支配地域における支配の撹乱」と思われる。ただし、アメリカの最終的な目標が「イスラーム国」の壊滅なのか、同派をイラク領から排除することか、シリアとイラクの両国の安定を実現することのいずれなのかについては曖昧さが残っている。

 

2.アメリカなどによる軍事作戦を政治・戦略レベルで検討した場合、オバマ政権に戦略が欠如していることが指摘できる。オバマ政権が「イスラーム国」に対し明確な戦略を立てて能動的に行動することができないのは、以下に挙げる事実に対する根強い懸念がアメリカ国内に存在するためである。それらは、第一にアメリカ社会はこれ以上の過度な人的・金銭的負担を負うことはできないということ、第二に「イスラーム国」はアメリカの死活的国益を脅かしているわけではないということ、そして第三に「イスラーム国」を軍事的に排除するだけでは根本的な解決にはならないということ、である。

 

3.戦域・作戦レベルでは、アメリカは「アフガン・モデル」と呼ばれる行動指針に沿って「イスラーム国」への軍事作戦を進めている。「アフガン・モデル」とは、2001年のアフガニスタンへの侵攻の際に用いられた行動指針で、アメリカ軍は現地に少数の特殊部隊を投入し、そこから得た情報を基に航空部隊が精密誘導弾による爆撃を実施、地上戦は爆撃に援護された現地の同盟勢力が行う、という作戦である。これにより、アメリカ軍は様々な負担や危険を低下させることが可能となる。このモデルの成否で問題となるのは、現地の同盟者に敵方が立てこもり防御を固めている地域を制圧する能力があるか否か、同盟者とアメリカとの利害関係をどこまで一致させることができるかである。

 

4.軍事戦術レベルでは、アイン・アラブでの戦闘、ティクリート攻防戦を事例に検討した。ここまでの情勢の推移では、「アフガン・モデル」に基づくアメリカの作戦はある程度有効に機能したと判断できる一方、トルコとの調整やイラク軍・民兵の振る舞いなど、地上戦を担う同盟者はアメリカの意に沿って動いたわけではなかったことも事実である。

 

5.これまでの軍事作戦の推移を見ると、「(「イスラーム国」の)領域的拡大の阻止と現支配領域における支配の撹乱」は一応達成されていると評価できる。しかし、「イスラーム国」に対する軍事作戦全般で最大の問題となるのは、アメリカに「イスラーム国」に対する確固たる戦略がないことである。すなわち、イラクでの軍事作戦が成功したとしても、シリアには信頼できる地上部隊はいない上、イラクでの包括的な国家の再建、周辺諸国との調整など、早急に解決すべき課題が多いのである。

*質疑では、戦闘を長期化させ、それを広報に利用することにより宗派紛争を扇動するという「イスラーム国」の活動方針・目標を分析の中にどのように取り込むのか、アメリカは「イスラーム国」対策の文脈でシリアをどのように処遇する方針か、などについてコメント・質問があった。議論の中では、シリア政府に対するアメリカの政策を転換することは困難であり、オバマ政権の次の政権を待つことになるのではないか、との見通しが示された。

(髙岡上席研究員)

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