中東かわら版

№12 イラン:中部エスファハーンで爆発音が発生

 2024年4月19日付『タスニーム通信』(保守系)は、地元関係者の声として中部エスファハーン空港近くで爆発音が聞かれたと報じた。現時点で情報は錯綜しているが、『ニューヨーク・タイムズ』紙(アメリカ資本)によると、イラン政府関係者はエスファハーン市近くの軍事基地に対する攻撃があったと述べた。『ワシントン・ポスト』紙(アメリカ資本)は、イスラエル軍がイラン領内で攻撃を実行したとの、匿名のイスラエル政府高官の発言を伝えている。事件発生を受けて、首都テヘラン、エスファハーン、シーラーズの空港でのフライト離発着は一時停止された。一方、イラン国内メディアは、爆発による被害は小さいとの論調で状況を報じている。『ファールス通信』(保守系)は、エスファハーンの核施設は完全に治安が保たれている、外国メディアによる報道は正しくないと報じた。また国営放送『IRIB』は、ドローン3機が上空で確認されたが、防空システムが破壊したと伝えた。この他、北部タブリーズでも爆発音が聞かれたとの報道や、イラク、シリアのイラン権益が攻撃を受けたとの報道もみられた。こうした中、エスファハーンを管轄するドースト正規軍将官は、「この音は不審な物体に対する防衛射撃に関係しており、被害は全くなかった」と発表した。また、テヘランのメヘラーバード空港では、フライト離発着が再開された模様である。

 

評価

 今次攻撃は、4月14日未明にイランがイスラエルに行った報復攻撃後に発生しており、イスラエル軍による反撃である可能性がある。現時点において、イスラエル側から正式な発表はなされていないが、メディアに対して攻撃を認めるような対応を取っている。国際原子力機関は核施設の被害はなかったと発表したものの、必ずしも被害実態は明らかではない。こうした状況下、イラン側は努めて平静を装っているようにみえる。民間機の空港使用の一時停止措置が段階的に解除されている様子を見る限りにおいて、イラン治安当局は治安上の脅威を高いとは評価していないようである。イラン本土で深刻な被害が生じた場合、革命防衛隊や正規軍は、攻撃の実行が疑われるイスラエルに対して報復せざるを得ない状況に追い込まれる。被害の有無に拘らず、イラン側には今次の事態は大したものではなかったと収束させたい誘因がある。

 他方、仮にエスファハーンにある核施設・軍事施設への攻撃が事実だった場合、更なる事態のエスカレーションが懸念される点を看過できない。先立って14日に発生したイランの攻撃では、イスラエルのディモナ核施設が被害を受けたとの報道もみられた。事前の予測では、イスラエルによる報復が核施設を含む大規模なものになるとの見方、あくまでも限定的なものになるとの見方、大規模なサイバー攻撃が行われるとの見方、並びに、シリアやイラク領内のイラン権益に対する大規模攻撃があり得るとの見方等が散見されていた。今次事件の被害が限定的な攻撃で終わった場合、イスラエルが送ったシグナルは、イスラエルはいつでもイラン領内を攻撃する能力を有するが、イランと戦火を交えることまでは求めていないというものだったと受け止めることができよう。一方で、追加の攻撃やイランの更なる反撃が発生した場合はこの限りではなく、関係国は当事者を抑制する働きかけを強化することになろう。

 

【参考情報】

「イラン:革命防衛隊がイスラエル本土に攻撃を実施」『中東かわら版』No.10、2024年4月15日。

「イラン:イスラエルに対する報復攻撃をめぐる警戒の高まり」『中東かわら版』No.8、2024年4月9日。

「イラン:イスラエルによる革命防衛隊幹部殺害に対する反応」『中東かわら版』No.3、2024年4月2日。

「シリア:イスラエルがダマスカス市内のイラン領事館を爆撃」『中東かわら版』No.1、2024年4月2日。

(研究主幹 青木 健太)

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