中東かわら版

№13 イスラエル・イラン:イスラエル軍のイラン中部への攻撃――「影の戦争」と「表の戦争」

 2024年4月2日、ダマスカスのイラン領事館関連施設がイスラエル軍によると見られる空爆を受け、革命防衛隊幹部を含む13人が死亡して以降、イスラエルとイランの関係が緊張状態にある。ダマスカス市内・近郊の爆撃は頻発しているが、イラン在外公館関連施設が攻撃対象になったのは初めてである。同日、イランのライーシー大統領は、イスラエルに対する報復を宣言した。同爆撃から11日後の13日夜、イランは本土からイスラエルに向けた攻撃を開始した。ドローン、弾道ミサイル、巡航ミサイルなど計331発が発射された。イスラエル軍は、米軍、ヨルダン軍などの支援もあり、99%を迎撃したと発表した。数発が南部の空軍基地に着弾し、ベドウィンの少女1人が負傷した他、軽微な被害が出たと報道された。イラン側は、攻撃対象は、ダマスカス空爆に使用された戦闘機の基地であるとし、攻撃は成功したと宣伝した。

 15日、イスラエルの戦争閣議はイランに対する反撃を決定した。19日、イランは、中部イスファハーンに対する3機のドローン攻撃があり、防衛システムを起動したと発表した。イスラエルは、攻撃については沈黙している。米国のメディアは、イスラエルが攻撃したと報道した。イラン側は、被害はほとんどないと主張、イスラエルが再度、イランの国益を害する場合、激しく反撃すると主張したが。イスラエルのイラン攻撃は限定的で、イランの反応も限定的になると見られている。

 

評価

 イスラエルとイランは、長年、「影の戦争」を継続してきたが、4月初旬から中旬にかけての衝突は、両国が公の攻撃を行う「表の戦争」になった。

 4月1日のダマスカスのイラン領事館施設爆撃は、従来の「影の戦争」のルールを書き換える攻撃だったとの分析がある。同攻撃により、イランは、公にイスラエルに報復することが求められる状況になった。イランは、13日夜にイスラエルを攻撃した際、攻撃することを前もって宣言・宣伝し、攻撃開始後は、イスラエルにミサイルなどが到着する前に、攻撃実施を公表した。また攻撃後は作戦成功を演出するなど、国内を意識した行動をしている。他方、イランは、計300発を超える弾道ミサイル、巡航ミサイル、ドローンを一度に発射し、イラン本土から1000キロメートルを超える距離にあるイスラエル国内に到達させる能力と意思があることを実証した。また攻撃は、無差別ではなく、南部の空軍基地を標的にした攻撃だと言われており、イランは、精度の高い長距離攻撃を行う能力があることも証明した。対して、イスラエル側は、米軍・ヨルダン軍などの協力はあったが、高いミサイル迎撃能力があることを証明した。これは、イスラエルが構築したアローミサイル2・3など低~高度での重層的な迎撃システム体制が実戦で機能したことを意味する。またヨルダンがイスラエルに向かう一部飛翔体を撃墜したり、サウジやUAEが飛翔体に関する情報をイスラエルに提供をしたと報道されたことは、イランの軍事的脅威に対するイスラエルと一部のアラブ諸国の協力体制が、実戦の中で部分的に機能したことを意味する。19日、ホワイトハウスのマクガーク中東政策調整官は、この協力体制が機能したことを評価する発言をしている。

 今回のイスラエルのイラン攻撃は、破壊が目的ではなく、メッセージを送ることだとされている。しかし、今の所、送られたメッセージは曖昧である。イラン国内から小型ドローンを発射する程度の作戦であれば、メッセージ性は弱いだろう。今回、イランがイラン本土から直接イスラエルを攻撃する意思と能力を示したのであれば、イスラエルも、直接イランを攻撃する意思と能力を示す必要があると想定すると、公にされていない攻撃があったとの推定は可能だろう。米国のメディアは、イスラエル軍の戦闘機が、長距離ミサイルを発射して、イスファハーン地域にある核施設を防御する施設を破壊したと報道している。イスラエル軍が、レーダーに探知されない戦闘機やミサイルを使用して、核施設関連の防衛施設に被害を与えたとの報道が事実であれば、これはイランに対する強い警告になるだろう。

 また今回の攻撃の応酬は、イスラエルとイランの「表の戦争」が勃発した場合、周辺国をいやおうなしに戦争に巻き込むことを証明した。イスラエルとイランの対立が「表の戦争」になった現状は、中東諸国の安全保障戦略に大きな影響を与え、イスラエルを含む域内諸国間の政治・外交的な関係を変容させる大きな要因となるかもしれない。

(協力研究員 中島 勇)

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