中東かわら版

№130 カタル:米国の動向に関わらずシリア反体制派への支援継続を表明

 11月26日、カタルのムハンマド・アブドゥルラフマーン外相は、『Reuters』のインタビューに対し、米国がシリア反体制派への支援を停止したとしても、カタルは立場を変えることはないと述べた。米国のトランプ次期大統領は、これまでサウジやトルコと協調して行っていたシリア反体制派への支援に否定的な見解を示しており、これを受けた発言と見られる。同外相は、「米国が我々と共にあることを望む」、「米国は歴史的な同盟国である」としながらも、「我々の立場は原則、価値、情勢評価に基づいたものであり」、「その立場を変えることはない」と述べた。

評価

 トランプ政権の中東政策については、未だに不透明な部分が大きい。選挙キャンペーン中に述べていたことと、実際に政策に落とし込むものとの間にはある程度の乖離があることが予想されているためである。もっとも、シリア政策については方針がある程度固まっていると見ることもできる。11月22日に『The New York Times』が行ったインタビューにおいてトランプは、シリアにおいてロシアやイランをも攻撃しているような状況で米国は何を得ているのかと疑問を投げかけ、ロシアとの協調のもとシリア問題を終わらせる意思があることを強調した。具体的な解決策についてはオフレコで話すことを要求しており、何らかの案が既にあることを示唆している。こうしたトランプの見解は、新たに国家安全保障担当大統領補佐官となるフリン元国防情報局(DIA)長官のかねてからの主張と軌を一にしており、同氏はシリア反体制派のなかにイスラーム過激派が入り込んでいるとして、米国が反体制派を支援することに警鐘を鳴らしてきた。

 米国がシリアでの立場を変えることは、反体制派支援を続けてきたカタルを始めとする湾岸諸国にとって大きな打撃となる。トランプが選挙戦に勝利した後、これまで湾岸諸国の政府高官からは儀礼的な発言しか出ていなかったが、今回のムハンマド外相の発言は一歩踏み込んだ内容と言えよう。イランの勢力拡大を危惧する湾岸諸国にとって、トランプ新政権の下でイラン核合意が反故にされることは肯定的な動きと見なされうるものの、シリア政策の転換、駐留する米軍の負担増加要求は望ましくないものと評価されよう。今後、シリア政策を巡って米国と湾岸諸国との間で大きな対立が発生すれば、地域秩序は更に流動化していくことになりかねない。

(研究員 村上 拓哉)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP