調査研究 政策提言

2023年度外交・安全保障事業

  • コメンタリー
  • 公開日:2026/03/23

ホルムズ海峡の封鎖で揺らぐアジアの石油供給網

 MEIJコメンタリーNo.24

中東調査会 主任研究員 高橋 雅英 

はじめに

 2026年2月28日に米国とイスラエルがイランを奇襲攻撃したことを受け、イランがペルシャ湾岸地域での軍事行動を活発化させている。こうした中、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が、アジア諸国の原油調達だけでなく、石油供給網にも深刻な影響を及ぼすことが懸念されている。

 

中東地域からのエネルギー供給の寸断

 イラン情勢の急変を受け、大量の石油や液化天然ガス(LNG)が日々通過するホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥った。イランによる船舶への威嚇や、海上保険料の高騰・引受停止を背景に、多くの海運会社や貿易会社は現在、ホルムズ海峡の航行を控えている。その結果、ホルムズ海峡を通過する船舶数は、イラン攻撃前日の2月27日には95隻だったが、3月1日には7隻まで大幅に減少し、その後も10隻以下で推移している(図表1)。

 

図表1 ホルムズ海峡を通航する船舶数 

(出所)IMF PortWatchをもとに作成

 

 ホルムズ海峡は、サウジアラビア、イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、クウェイト、カタル、バハレーン、ならびにサウジ・クウェート中立地帯で生産された原油・石油製品の主要な輸出ルートである。2025年には、世界の原油取引量の約34%に当たる日量約1,494万bpdの原油と、492万bpdの石油製品がホルムズ海峡を通過し、主にアジア市場へ輸出された(図表2)。

 

図表2 ホルムズ海峡経由の原油・石油製品輸出量(2025年) 

(出所)IEAをもとに作成

 

 ホルムズ海峡の通航不可により、イラン以外の国々からの石油輸送が物理的に遮断される中、同海峡を迂回可能な代替ルートも限られている。まずサウジアラビアには、東部の油田地帯アブカイクから西部の紅海沿いの港町ヤンブーまでを結ぶ、全長約1200キロメートル(km)の東西原油パイプライン(輸送能力500~700万bpd)がある。次にUAEには、アブダビ首長国の油田地域ハブシャーンからホルムズ海峡のインド洋側に位置する港町フジャイラに通じる、全長約360kmの原油パイプライン(輸送能力150~180万バレル)がある。現在、サウジアラビアはホルムズ海峡を迂回できるヤンブー港からの原油輸出を増やしている。米通信社「ブルームバーグ」がまとめた船舶追跡データによれば、同港からの原油輸出量は3月5日の190万bpdから、3月10日には293万bpdに増加し、3月17日には379万bpdまで拡大した。

 一方、サウジアラビアとUAEのパイプライン輸送能力(合計650~870万bpd)の制約を踏まえると、2025年並みの石油通過量(約2000万bpd)を迂回ルートでカバーすることは難しい。さらに、UAEの原油輸出拠点であるフジャイラ港は3月14日から17日にかけて少なくとも3回の攻撃を受け、原油の積み出し作業が度々中断した。サウジアラビアのヤンブー港でも、3月19日に同港のSAMREF製油所がドローン攻撃を受けた影響で、原油の積み出しに一時的な支障が生じた。イランによる湾岸諸国のエネルギー施設への相次ぐ攻撃は、ホルムズ海峡を迂回する輸出ルートの安定性を損なう懸念材料となっている。

 

「石油製品輸出国」としてのインド

 ホルムズ海峡の通航不可は、インドのエネルギー政策にも甚大な影響を及ぼしている。インドは世界最大の人口を有し、1990年代より経済成長を続けていることから、石油消費は年々増加している。エネルギー研究所(The Energy Institute)によれば、インドの石油消費量は2014~2024年の期間に年平均で4%増加し、2024年時点で米国や中国に次ぐ、世界第3位の規模である。一方、国内の原油生産量は2011年をピークに減少傾向にあるため、インドは国民生活や経済活動を支えるために国外から多くの原油を確保する必要がある。

 インドの国別の原油輸入量では、ロシア産のシェアが2018年の1%から2024年には35%まで上昇した結果、ペルシャ湾岸諸国からの輸入割合は63%から46%に低下した(図表3)。インドによるロシア産原油の輸入は、石油の安定確保や中東産への依存低減にもつながっている。ただ、インドと地理的に近い中東産油国からの輸入は、輸送の日数及び費用が他地域より少なく済み、安定的に調達できるため、エネルギー安全保障の観点で、インドにとって理想的な供給ルートである。

 

図表3 インドの国別の原油輸入量(20182025年) 

(出所)インド商工省の統計をもとに作成

 

 また、インドは世界有数の石油製品輸出国であり、各地から調達した原油を精製し、世界約160の国・地域に石油製品を供給している。石油製品の生産量は国内需要を大きく上回り、その余剰が輸出に充てられている。インド統計・計画実行省(MOSPI)によれば、2023年度(2023年4月~2024年3月)に生産された石油製品のうち、ガソリンは30%、ディーゼルは24%、ナフサは28%、ジェット燃料油は50%が輸出された。インドの精製能力は2024年時点で517万bpdに達し、その規模は米国・中国・ロシアに次ぐ世界第4位である。石油製品の輸出量も主要産油国のサウジアラビアを上回り、世界第4位である。

  インドはウクライナ戦争下、ロシア産石油製品が市場から排除され、かつ高い利幅も見込める欧州への輸出拡大を図ってきた。インドの欧州向け石油製品輸出量は、2021年の1,184万トンから2023年に2,748万トン(総輸出量の26%)へと急増し、2024年も2,620万トン(27%)と高水準を維持した。現在、欧州はインドにとってアジア、アフリカ、中東と並ぶ重要な販路となっている(図表4)。インドがウクライナ戦争で不安定化したエネルギー市場から経済的利益を得ながら、石油製品の輸出国としての地位を維持するには、国内需要を上回る量の原油を確保する必要がある。そのため、イラン戦争の長期化によって中東産原油の輸入が大幅に減少すれば、現在の石油製品輸出量を維持できなくなる。

 

図表4 インド産石油製品の地域別の輸出量(20182025年) 

 (出所)インド商工省の統計をもとに作成

 

原油・ナフサ供給不足に直面する日本

 ホルムズ海峡の通航不可は、日本のエネルギー調達にとっても大きな懸念事項である。日本は欧米諸国と足並みを揃えて2022 年にロシア産原油の輸入を控えたことから、ほぼ全ての原油を湾岸産油国から輸入している。原油の中東依存度は2025年に約94%に達し、ホルムズ海峡を経由した原油輸入量は9割にのぼる。現時点ではサウジアラビア及びUAEにおいて、ホルムズ海峡を迂回する輸出ルートを通じた原油輸出が一定程度継続されている。しかし、原油パイプラインの輸送能力に限界があることや、イランの攻撃に伴う安全上の懸念から積込作業が一時停止する場面もみられることから、両国からの原油輸入量は、従来の水準を大きく下回っている可能性が高い。

 こうした中、日本で原油と並んで供給不安が高まっているのが、石油製品の1つであるナフサである。ナフサは、原油を精製して得られる石油化学の基礎原料であり、熱分解によってエチレンやプロピレンを生産し、プラスチック、合成繊維、洗剤、包装材など多様な製品の製造に用いられる。このため、ナフサは日用品から工業製品に至るまで幅広い分野を支える重要な素材と言える。

 ナフサは石油製品の中でも海外依存度が特に高い。2024年度には供給量の64%を輸入で賄っており、輸入先はUAE、カタル、クウェイト、バハレーン、サウジアラビアなど湾岸諸国に大きく偏っている。流通量全体に占める中東依存度は47%に達しており、同じ石油製品でありながら対米依存度(53%)の高い液化石油ガス(LPG)と比べても、ナフサ供給は中東への依存構造がより顕著となっている。イランのエネルギー施設への攻撃が、UAEのルワイス製油所やクウェイトのミーナー・アフマディー製油所、ミーナー・アブドッラー製油所にも及んでいることから、仮にホルムズ海峡の通航が再開しても、中東地域からのナフサ供給は中長期的に停滞する恐れがある。

 

図表5 日本の石油製品生産量と国別輸入量の割合(2024年度 

 (出所)経済産業省資源エネルギー庁の統計をもとに作成

  

 日本の石油製品不足に拍車をかける別の要因として、韓国による石油製品の輸出制限に向けた動きも挙げられる。金産業通商相は3月17日の閣議で、国内供給の安定化策の一環として、石油精製業者の輸出量に上限を設ける方針を示した。日本の石油製品供給量に占める韓国産のシェア(2024年度)は、灯油が18%、ガソリンが9%、ナフサが7%、軽油が6%にのぼる。このため、韓国からの調達が停止した場合、日本の石油製品供給はさらに厳しくなるだろう。

 韓国も日本と同じく、原油のほぼ全てを海外から輸入している。2025年の中東産原油の輸入割合は、サウジアラビアが33.6%、UAEが11.4%、イラクが10.4%、クウェイトが8.5%、カタルが4.4%、オマーンが0.7%だった(図表6)。韓国の中東依存度は日本より低い約69%にとどまるものの、ホルムズ海峡を迂回できないイラク、クウェイト、カタルへの依存度が約23%に達していることから、ホルムズ海峡の通航不能は韓国の原油調達にも大きな支障を及ぼしている。当面、韓国も原油の輸入量を増やせない点を踏まえると、日本向けの石油製品の供給も停滞する見通しである。

 

図表6 韓国の国別の原油輸入量(20202025年) 

(出所)韓国エネルギー経済研究院の統計をもとに作成

 

 以上のように、ホルムズ海峡の通航停止による中東諸国からのエネルギー供給の停滞は、アジア諸国の原油調達を困難にするのみならず、石油製品輸出を基軸とする各国の石油供給網にも重大な打撃を与えている。各国が短期的には石油備蓄の放出などで対応できるとしても、石油サプライチェーンの正常化に必要な原油を十分に確保できない状況が続けば、石油製品の供給不足を通じて経済的損失が拡大していくことが懸念される。

 

(脱稿日:2026年3月23日)

 

 

 

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