№41 シリア: 省庁・政府機関の顧問全員を解任
2025年8月2日、大統領府のマーヒル・シャラ長官(アフマド・シャラ大統領の兄)は、各省庁や政府機関で任命された顧問全員の人事を廃止するとの決定を発出した。この決定について、8月5日付『ナハール』紙(キリスト教徒資本のレバノン紙)はシリアの政治・社会情勢や移行政府の政策運営、政府についての情報漏洩などを背景とする論争を惹起したとして要旨以下の通り報じた。
*決定の理由についての公式な説明は、公的機関の行政上の人事を秩序立てるためであるが、これに納得しない者が多い。一部の者は、移行政府の編成の際に(イスラーム過激派の政治的志向)一色に占められた政府の印象を和らげ、省庁にテクノクラートの外装を帯びさせようとする試みを一掃するものだと考えている。別の者は、7月のスワイダでの戦闘に抗議して経済省のサムト・アブドラッブ顧問が辞任したことと関連していると考えている。また別の者は、ハージム・シャラ(アフマド・シャラ大統領の兄)を委員長とする秘密の委員会がシリア経済を解体・再編しようとしているとの情報が大手報道機関に漏洩したことへの指導部の不快感と結びついていると考えている。
*去る3月の移行政府編成後に諸省庁・機関で多数の顧問が任命されたが、当初これは政府内でテクノクラートの比率を上げるとともに、政府の(イスラーム過激派)色を薄めるものとして好意的に評価された。シャアール経済相は8人という異例の人数の顧問を任命したが、複数の顧問は、任命は契約書や省庁・顧問間の責務を定めた文書を通じてなされたのではなく、ボランティアとして頼まれたものだと証言した。
*法律の専門家は今般の決定について、野放図な顧問任命を規制し、不当な特権に歯止めをかける当然のものだと論評した。この専門家は、最近になって省庁や部局で軍隊のように大勢の顧問が任命されたことは、(当該の部局に)行政能力がないことや、閣僚が官僚たちを信頼していないことを示しかねないと指摘した。
*経済相顧問を辞任したサムト・アブドラッブ氏は、辞任自身のSNSに「最近の虐殺がなかったら、自分はこれから何をされるかわからなかっただろう。投資や繁栄についての大仰なスローガンの後ろに潜んでいる者たちは、人々を幻影で欺く以外のことをしていない。この国は全面的な宗派混乱にあるが、このことや調印された合意は移行期の約束ではなかった」と投稿し、自身の辞任がスワイダでの戦闘を原因とすることを表明した。
*『ロイター』が7月に報じたハージム・シャラを委員長とする秘密の委員会によるシリア経済の解体・再編計画についての情報は、『ロイター』に漏出した情報の点で指導部を驚かせ、不快感を抱かせた。指導部は、確たる証拠もなく経済関係省庁の顧問らが情報漏洩に関与したとの疑念を抱いた。行政の専門家は、顧問人事の全廃決定は情報漏洩に対する政権の懸念と、助言が採用されないことが顧問らの反抗を招くことへの懸念を反映していると述べた。
*匿名の顧問は、任命以来大臣にほとんど会っていないこと、国家にかかわる重要事項は担当省庁に諮ることなく大統領周辺が決定していることを証言した。これは顧問らの多くが経験していることであり、上記の行政の専門家は、行政機関が内部から空洞化していること、公的な行政が形骸化していることを示しており、法律や経済の顧問が任命されても実際の国造りの政策の本質ではなく些末な問題しか意見を求められていないと述べた。同専門家はこの状況を、諸省庁が何の問責も受けない省庁外部の者によって運営されるという、権威主義的構造の再生産だと指摘した。
評価
3月の移行政府の人事についても、「革命の功労者」への論功行賞と、政権のイスラーム過激派色を薄める効果を意図したものであることは指摘したが、移行政府の人事で軍・治安機関・法務部門をシャーム解放機構とそれに近しい者が握り、権限や重要性の乏しい役職を配分することを通じて形式的に「政権の多様性」を演出することは、アサド政権期の手法を踏襲するものであった。今般の記事で問題となった顧問の任命にも同様のことが言えたが、顧問人事の全廃決定は、政府に「行政についての専門知識や能力がある」と装うことがなにがしかの限界に達したことを示す。
また、政府の高官が自身の縁者や親しい者たちを法的手続きによらずに政策決定や省庁の役職に関与させることは、「シリア革命」で打倒が叫ばれた縁故主義に他ならない。このような政策運営は、信用できる者を要職に配置するという効果の他に、個人的な人間関係に沿って役職や権益を配分するという弊害と、政権有力者との人間関係を背景にした行政や法執行のゆがみのような腐敗を招く。今般の決定は、一見すると法的根拠の乏しい顧問人事を廃止し、高官周辺の縁故主義の是正を図るものだ。しかし、実際には記事中で「大統領府長官」や「経済再編のための秘密委員会委員長」にアフマド・シャラ大統領の兄弟が起用されていると指摘されている通り、「革命の功労者」たちが、彼らが「打倒」したはずの旧弊のままに政府を運営していることを示すものとなった。
(特任研究員 髙岡 豊)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/








.png)
.jpg)