№36 レバノン:リタニ川の渇水が深刻化
東地中海地域は全般的に冬期の降水量が史上最低水準にとどまり、各地で水不足が顕在化している。レバノンについても、2025年7月15日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)がリタニ川(ベカーウ高原から南レバノンを経て地中海にそそぐ河川)に設置されたダム湖のカラウーン湖の貯水量がかつてないほどに低下しているとして要旨以下の通り報じた。
*今期のカラウーン湖への流入量は、平年の3億5000万立方メートル(昨期は2億3000万立方メートル)に対し4500万立方メートルに満たなかった。当局によると、現在カラウーン湖の貯水量は6100万立方メートルに過ぎないが、この水は汚染がひどいため(灌漑や飲用に)使用できない。
*貯水量の不足のため、カラウーン湖に設置された水力発電所は停止した。貯水量減少の要因は、一つは降水量の減少、もう一つは地下水の減少である。乾期の激化や気温の上昇により、土壌が乾燥し、地下水の保水力も落ちている。
*当局は、一部地域への給水を1日20時間から1日10時間未満へと削減した。周辺の農村は本来肥沃な地域だが、農民たちは給水削減の影響を心配している。地元の農民の一人は、かつては60~70センチメートルの積雪がある地域だったが、最近は雪を見ることもなくなったと述べた。
*灌漑設備稼働に不可欠な電力供給が不規則になったことで、(社会的)圧力が高まっている。エネルギー・水省の顧問は、近日中に水の消費量を減らすための啓発キャンペーンを開始すると述べた。
評価
水不足についての報道や情報は、レバノンだけでなくシリア、イラク、パレスチナでも顕在化している。特に、レバノンのベカーウ高原は、パレスチナのティベリアス湖・ヨルダン川の水源の一つであるハースバーニー川の水源でもあるため、レバノンでの降水量の不足は下流のパレスチナ・イスラエルでの水資源の利用と配分の問題にも大きな影響を与える。アラブ諸国が人口増加や非効率的な水使用による需要の増加という、水不足の構造的な原因を抱えるのも事実だが、夏期に新たな降水を期待することも、新たな水源を開発することもほぼできないことから、当座の対策は節水の呼びかけや消費者間の適正な水資源の配分とせざるを得ない。
(特任研究員 髙岡 豊)
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