中東かわら版

№137 イスラエル:攻撃支持の一方で伸び悩む議席数

 2026年3月4日、イスラエル民主主義研究所は、ユダヤ系イスラエル人の93%が、2月28日に始まったイスラエル・米国によるイラン攻撃を支持していることを示す世論調査を発表した。一方、アラブ系イスラエル人では26%であった。

 また同調査は、ネタニヤフ首相の作戦運営能力に関して、ユダヤ系イスラエル人の74%が「信頼している」、「ある程度は信頼している」と回答した。信頼する割合は「右派」で高い傾向にあり85%がネタニヤフ首相の作戦運営能力に肯定的であった。一方で、「中道」で62%、左派で40%であった。

 他方、3月6日、『The Jerusalem Post』紙は、イスラエル・米国によるイラン攻撃が政治の分野では肯定的な影響を及ぼさないとする『マアリヴ』紙の世論調査の結果を報じた。同紙によれば、支持する政党においてネタニヤフ首相が属するリクード党は前回から1議席しか増やしておらず、連立政権でも1議席増の51議席であった。一方、野党陣営の議席は1議席減であったが59議席であり、依然として現在の連立政権より支持されていることが分かった。このような結果を受け、同紙はイラン攻撃が「大きな政治的成果をもたらさない」と報じた。

評価 

 2026年1月16日、『The Jerusalem Post』紙は、米国がイランを攻撃した場合、イスラエルがその攻撃に参加することに70%が肯定的な立場を取っているとする世論調査を報じている。今般のイスラエル民主主義研究所の世論調査では、ユダヤ系イスラエル人の93%が攻撃を支持しているが、ユダヤ系・アラブ系の合計では82%であった。少なくとも対イラン攻撃への支持自体は、攻撃以前から相当程度高かったとみられる。その意味で、今般の結果は軍事行動開始後にその支持が急上昇したことを示すものではなく、支持が高い水準で維持されていることを示したものといえる。

 しかし、イラン攻撃への支持の高さが、必ずしもネタニヤフ政権の支持へとつながるわけではない。実際、2025年6月13日~6月25日にイランを攻撃した「12日間戦争」の前後に『マアリヴ』紙世論が行った支持する政党に関する調査では、リクード党はおおむね1~3議席程度の増減の範囲で推移し、同じく連立政権の議席でも1~2議席程度の増減にとどまっていた。6月25日に『The Times of Israel』が報じた世論調査では、リクード党が4議席増の26議席となっているが連立政権全体では49議席であり、野党陣営の61議席より少ない議席数となっている。イランへの攻撃が長期化した場合のデータはないが、現時点での世論調査ではイラン攻撃が連立政権の支持率を浮上させるきっかけとならないことが改めて確認された形となっている。

 他方、イスラエルの国内政治を見た場合、今般のイラン攻撃は政権側にとってメリットもあるとみられる。3月9日、ラピード元首相は、イラン攻撃という戦時下にあっても政府がユダヤ教徒超正統派の徴兵法案可決を推進していると非難した。また、3月1日には予定されていた超正統派の兵役をめぐる高等裁判所の審理が、対イラン戦争の激化を受けて取り消されたと報じられた。超正統派の徴兵法を巡っては連立政権内でも意見が割れ、それにより3月に来年度予算案が通らない可能性がイスラエル国内で指摘されていた。3月末までに来年度予算案が可決されなければ、国会は自動的に解散されることになる。

 今般の攻撃によって、イラン情勢に国民の関心が向く中、徴兵法案をめぐる対立や予算案処理をめぐる政治的圧力は、相対的に見えにくくなっている。そのような中、予算案は徴兵法案の可決の如何を問わず、戦時下を理由に可決に向けた動きが強まると思われる。

 またネタニヤフ首相の汚職裁判は、これまでも安全保障上・外交上の事情を理由に日程変更がなされてきた過去がある。今般の攻撃でも、延期、日程の変更が行われる可能性がある。つまり国内政治の面で見た場合、今般の対イラン攻撃は、支持率の押し上げというよりも、政権が抱える懸案の解決や先送り、時間稼ぎという点で実利をもたらす可能性がある。

【参考】

「2026年2月28日の対イラン攻撃をめぐるイスラエルの判断――脅威認識の変化、国内世論、今後の展望」『中東分析レポート』R25-06。※会員限定。

イスラエル政治を左右するユダヤ教超正統派――徴兵法問題と連立政権の行方」『中東分析レポート』R25-05。※会員限定。

(研究員 平 寛多朗)

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