中東かわら版

№92 シリア:シャラ大統領一行のアメリカ訪問

 10日、アフマド・シャラ(通称:アブー・ムハンマド・ジャウラーニー)大統領一行はアメリカを訪問し、ホワイトハウスにて同国のトランプ大統領と会談した。トランプ大統領は、シリアに成功した国になってほしいと述べるとともに、シリアは自身のより広汎な和平計画の「大きな一部」であると表明した。

 なお、今般のアメリカ訪問に先立ち、国連安全保障理事会ではアメリカの提案によりシャラ大統領とハティーブ内相の「国際テロリスト」指定の解除が議決された。解除の理由として、地域の安定への貢献や麻薬対策の推進が挙げられた。これを受け、アメリカ、イギリス、トルコなども両名の「テロリスト」指定を解除した。

評価

 報道やSNS上の論評では、今般の訪問でシリアが伝統的な友好国だったロシアやイランの陣営から抜け、アメリカの従属化・保護下に入ることが決定的になったと論じられている。ただし、状況の展開は国際関係をゲームのように語る水準とは全く異なる重大のものである。今後アメリカ陣営がシリアに期待することは、イスラエルの要求に沿った「和平」の実現と安全保障分野でのアメリカへの従属となる。その結果、シリアにとってはイスラエルが占領しているゴラン高原の回復は望めず、さらには「非武装地帯の設定」などの名目でダマスカスを含む広範囲の主権が制限されることになるだろう。また、シャラ大統領一行のアメリカ訪問に先立ち、ダマスカス北東のドゥマイル、ダマスカス市外に隣接するマッザの両空軍基地がアメリカの管理下に入ったとの情報も流布しており、現体制が「国際的承認」を得るために費やした費用は甚大である。

 また、現体制が「イスラーム国」対策の国際同盟に「正式に」参加することになるとの見通しもあるが、これはイスラーム過激派の一部を馴致(じゅんち。飼いならすこと)してイスラーム過激派対策の先兵として起用する「テロ対策」の先駆的試みである。その結果、シャラ大統領を含む現体制高官の、アル=カーイダの一員としての経歴や行動は不問に付されることになる。

 現在、シリアでは人民の生活水準の改善よりも新体制作りに伴う負担が先行する状況にある。10月末の電気料金の大幅の引き上げは広範囲で不満を呼んだ模様であるが、体制側は今般のアメリカ訪問のような外交的成果や、連日国内各所で開催される祝典を喧伝することで抑えようとしていると思われる。現体制が外交的成果を早期に人民の生活水準の改善に反映させられないようなら、体制高官の個人的な承認獲得・栄達のために領域や主権を引き渡したとの趣旨の批判が出るようになるだろう。

(特任研究員 髙岡 豊)

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