№90 シリア:電気料金の大幅引き上げ
10月末、シリア政府は電力使用料金を大幅に引き上げると決定した。決定によると、利用者を所得や事業の業態によって複数の階層に分類したうえで各々に異なる料金が課される。例えば、低所得者は2カ月間の使用量300キロワットまでは1キロワット当たり600シリア・ポンド(注:以下SP。公定レートで1ドル=1万1000SP)で、料金の6割が政府からの補助に相当する。中・高所得者や小規模事業主で2カ月間の使用量が300キロワットを超過した分は、1キロワット当たり1400SP、政府機関や計画停電の対象とならない企業・工場などは1キロワット当たり1700SP、電力使用量が多い事業者(鉄工所など)は1キロワット当たり1800SPが今後の料金となる。
今般の料金改定は一般のシリア人の生活に大打撃となるとみられており、アラビア語の報道機関の多くは怒りと衝撃で受け止められていると報じている。例えば、年金生活者の場合1カ月の年金支給額85万SPのところ、今後の電力利用料は2カ月で90万SPとなる見通しである。また、現体制下で実施された給与引き上げにより月給が140万SPとなった職員は、家庭用のガスボンベ1缶が15万SP、毎日の交通費が2万SPの状態での電力使用量の値上げは大打撃だと不満を述べた。
評価
シリアでの体制転換を歓迎する諸国からの支援・贈与・投資の表明やそれについての合意により、シリア人民の生活水準が改善しているかのような印象が持たれるが、諸措置が実際に効果を及ぼすまでには一定の時間がかかる。特に、電力や燃料部門では老朽化した施設の改修や供給国とのシステムの統合などの課題がある。そのうえ、現体制はこれまでの社会主義的な経済の仕組みを解体する方針とみられているので、その過程で電力、水道、ガス、交通などの公共料金の大幅な引き上げは不可避である。生活水準の改善が遅れていること(あるいは実際の生活水準が低下していること)に対する不満が高じたとしても、それが直ちに大規模な反体制運動や社会不安につながる可能性は高くない。しかし、外部からの資源提供にはなにがしかの対価が必要であることに鑑みれば、復興・復旧、経済体制の改編、人民の生活水準の向上のすべてを達成することは急務である。
(特任研究員 髙岡 豊)
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