中東かわら版

№75 アフガニスタン:ターリバーン軍とパキスタンが交戦

 2025年10月11日夜、アフガニスタンとパキスタンの国境地帯で両国による軍事衝突が発生し、アフガニスタン・ターリバーン政権のムジャーヒド報道官は翌12日、57名のパキスタン兵士が殺害され、9名のアフガニスタン兵士が命を落としたと発表した。これに対し、パキスタン軍は同日、200名以上のターリバーン兵士とその関係者を殺害し、23名のパキスタン兵士が死亡したと発表している。

 ムジャーヒド報道官によると、サウジアラビア及びカタルの仲介により、パキスタンへの「報復」は11日夜半に停止したという。

ターリバーン政権の国防省は、ターリバーンによるパキスタンへの攻撃は9日に行われたパキスタン軍によるものとされる空爆への報復だと発表しているが、パキスタン側はこの空爆への関与を認めていない。報道によると、パキスタン軍は9日、アフガニスタンの首都カーブルとアフガニスタン南東部パクティカー州バルマル郡を空爆した。なお一部報道で、カーブル空爆により「パキスタン・ターリバーン運動(TTP)」の指導者ヌール・ワリー・マフスード氏の殺害が伝えられたが、TTPはこの報道を否定している。

 パキスタンのシャリーフ首相は、「パキスタンの防衛に、妥協は一切存在しない。いかなる煽動行為も、力強い実効的な反応に直面するだろう」と述べ、テロリストに自国を利用するのを許しているとして、ターリバーン政権を非難した。

 アフガニスタン、パキスタン両国と国境を接するイランのバガーイー外務報道官は、両国に対し自制と緊張緩和のための緊急対話を呼びかけた。

評価

 パキスタンは、昨年12月にもパクティカー州バルマル郡を空爆し、多数の死傷者を出している。パキスタンによるアフガニスタン空爆は、2021年のターリバーン政権の復活以降、少なくとも3度行われているが、カーブルへの爆撃は(パキスタン軍によるものだとすれば)初めてである。

 今回の衝突により、アフガニスタンとパキスタンの国境は複数の地点で閉鎖された。パキスタンは、アフガニスタンにとって食料品等の生活必需品の最大の供給元であり、パキスタンとの国境の封鎖は、パキスタン及びイランからの大量のアフガニスタン人移民の強制送還によって社会・経済情勢が不安定化しているアフガニスタンに、さらに多大な影響を及ぼす可能性がある。

【参考】

アフガニスタン:パキスタン・ターリバーン運動(TTP)の指導者が殺害か」『中東かわら版』No.71。

(主任研究員 斎藤 正道)

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