中東かわら版

№73 イスラエル・トルコ・パレスチナ:ガザ和平へのトルコの関与

 2025年10月13日、イスラエルのメディアはネタニヤフ政権が、ガザ地区で活動する部隊にトルコが参加することを断固拒否していると報じた。これはガザ停戦に至る一連の過程を通して、トルコが仲介者としてガザ情勢に深く関わってきたことへのイスラエルの警戒心がある。

 トルコのガザ情勢への関与は、停戦交渉が行われる中で明らかとなった。8日、『The Jerusalem Post』紙は、エジプトで行われている停戦交渉にトルコが関与しており、米国のトランプ大統領がトルコに対し、ハマースを説得し停戦案を受け入れるよう要請したと報じた。

 9日、エジプト、カタル、トルコが参加する間接交渉を経て、イスラエルとハマースが停戦および捕虜交換について合意したと米国のトランプ大統領は発表した。この発表を受け、パレスチナのアッバース大統領は、トランプ大統領および仲介国となったエジプト、カタル、トルコに謝意を示す声明を出した。

 10日、『The Jerusalem Post』紙は、和平合意の全文を公開した。合意文書によれば、米国、カタル、エジプト、トルコ等で構成される合同任務部隊が、イスラエルとハマース間の合意の実施状況をフォローアップする役割を担うことになっていた。

評価

 2023年10月7日のハマースの攻撃を発端とするガザ戦争の停戦交渉は、米国、エジプト、カタルが主導してきた。今般の停戦合意では、これらの国々にトルコが仲介国として参加した。これは今後のガザ情勢を考える上で重要な変化である。

 トルコは、ハマースがパレスチナ自治区の選挙で勝利した2006年以来、ハマースの幹部を受け入れるなど緊密な関係を維持してきた。また2023年10月7日の、ハマースによるイスラエル人殺害の後、エルドアン大統領はハマースを「解放のための組織」と表現し、テロ組織とみなさない立場を明示している。ムスリム同胞団をテロ組織に指定し、その分派であるハマースに警戒心を抱くエジプトとは根本的な立場が異なっている。

 このようなトルコとハマースの関係を背景に、2025年10月8日、イスラエルのメディアはトルコ情報機関の長官がハマースとの協議に臨むことは、ハマースに対する圧力になると報じていた。

 一方で、今般の停戦合意ではトルコが仲介国として参加したものの、イスラエル駐在のトルコ大使が不在など、イスラエルとトルコの関係は良好なものとは言えない。トルコはF-35戦闘爆撃機の導入を進めており、それが実現すればイスラエルの航空戦力の優位性が揺らぐ可能性がある。また、トルコは地中海沿岸で原発の開発を進めており、これらのことを念頭にイスラエルの一部メディアは7月に、トルコを「新たなイラン」と呼び警戒感を示していた。

 さらに、トルコ海軍は9月末にエジプト海軍と合同軍事演習を実施しており、必要に応じて東地中海の航路を封鎖する能力を誇示した。地中海ルートに貿易と輸送を依存するイスラエルにとっては、トルコとエジプトの協力は潜在的な圧力となった。

 今般の停戦交渉参加を契機に、トルコとイスラエルの関係改善を期待する見方もあるが、テルアビブ大学の研究者は、ガザ地区におけるトルコの存在が、両国関係の緊張要因となり得ると指摘している。10月13日、イスラエルのメディアも、トルコ政府のイスラエルに対する強硬姿勢、ムスリム同胞団との緊密なイデオロギー的結びつきがハマースの武装解除において障害となり得るとの見方を示した。

 両国関係が改善に向かうのか、悪化に向かうのかは不透明である。いずれの方向に進むとしても、トルコがガザ地区での合同任務部隊に加わるのなら、今後のガザ情勢は、トルコとイスラエル、トルコと米国、さらにトルコとエジプト、トルコとハマースの関係性に大きく左右されると考えられる。ハマース説得のため、トルコを仲介国に引き入れたことにより、トルコはガザ情勢を左右する主要な軸となり、またトルコにとってガザ情勢はイスラエル、米国との交渉における一つの材料となった。

(研究員 平 寛多朗)

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