№70 イラン:ロシア製4.5世代戦闘機Su-35の購入計画の報道
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2025/10/09
2025年10月5日及び6日付「Defence Security Asia」及び「Newsweek」電子版は、ハッカー・グループによってリークされたロシア国営工業コングロマリット「ロステック」傘下のKRET(コンツェルン無線電子技術)社の機密情報として、イランが48機のロシア製4.5世代戦闘機Su-35ほかを購入する計画であると報じた。購入金額は50-60億ユーロに及ぶと考えられ、2026年から28年にかけて納品される予定だという。イラン国内でのSu-35の組み立ても計画されているという。
評価
「Defence Security Asia」等が報じた内容が正しければ、イランとロシアの防衛協力関係は新たな段階に入ったと言えるだろう。それはまた、(Defence Security Asiaが指摘するように)イスラエルを含む地域の航空戦力のバランスを乱し、新たな軍拡競争を地域にもたらす可能性がある。
他方、国連安保理決議第1929号によって、各国はイランへの軍用機を含む各種兵器の輸出・提供を防ぐことが求められており、ロシア企業によるイランへの戦闘機の提供が確認され、ロシア政府がそれを防がなかった場合、同国は国連安保理決議に違反することになる。
さらに問題なのは、50億ユーロを超えるとされる購入代金を、イランがどのようにロシアに支払うかである。ロシアとの原油によるバーター取引や、ユーラシア経済連合及び同国の友好国(例えばインド)との貿易を通じてロシアに代金を支払う仕組みを構築する可能性もあるが、イランはすでにロシアに対して貿易赤字を抱えており、ロシア製戦闘機の導入によってイランがロシアに対して巨額の債務を抱える危険性もある。
今回の報道に先立つ9月23日、イラン国会安保外交委員会所属のゾフレヴァンド議員は、(真偽不明なるも)イランの航空戦力の不足を埋める「短期的方策」としてロシア製戦闘機MiG-29がすでにイラン国内シーラーズに配備されており、「長期的方策」としてSu-35が徐々に導入されつつあること、中国製防空ミサイル・システムHQ-9やロシア製S-400も導入されつつあることを証言していた。2025年7月下旬にも、S-400がイラン・イスファハンに配備されたとの情報も一部で報じられており、イスラエルとの12日間戦争、そしてスナップバックの発動を経て、イラン体制内ではイランの政治・経済・軍事面でのロシア(及び中国)への傾斜・期待感が目立っている。なお、ゾフレヴァンド議員は、強硬保守派のリーダー的存在であるジャリーリー国家安全保障最高評議会最高指導者名代に近い元外交官であり、改革・穏健派に近いペゼシュキヤーン大統領批判の急先鋒である。
他方、改革派のハータミー政権時代に外務次官を務めた国際協調派のモハンマド・サドル公益判別評議会委員は、8月23日に掲載されたあるメディアとのインタビューのなかで、S-400をトルコに提供しながら、イランには提供しようとしてこなかったとしてロシアを非難、さらに同国がイランの軍事情報をイスラエルに漏らした可能性すらあるとして、ロシアへの不信感をぶち撒けた。
ロシアとの包括的戦略協定を「無意味」だと切り捨てたサドル氏の主張に対し、強硬保守派の日刊紙「ケイハーン」はイランの「安全保障と外交政策を傷つける」ものだと反発する一方、改革・穏健派に近いメディアは返す刀で、ケイハーン紙を「ロシアを無条件に支持」していると批判するなど、ロシアとの関係は強硬保守派と改革・穏健派の政治的対立の焦点の一部となっている。
【参考】
「イラン:ロシアと原子力発電所の新設に合意」『中東かわら版』2025年度No.62、2025年9月30日。
(主任研究員 斎藤 正道)
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