№58 エジプト:イラン核査察合意の仲介とその意義
2025年9月9日、アブドゥルアーティー外相は、イランのアラーグチー外相及びグロッシ国際原子力機関(IAEA)事務局長とカイロで共同会見を開き、イランとIAEAがイランの核施設への査察再開に関して合意したと発表した。
会見に先立ち、アラーグチー外相はシーシー大統領と面会し、今回の合意に至るまでのエジプトの仲介努力に感謝の意を表明した。10日には、イランのペゼシュキヤーン大統領がシーシー大統領と電話会談を行い、エジプトの仲介に対し謝意を示した。
11日以降、シーシー大統領とアブドゥルアーティー外相は、フランス外相、EUのカッラス上級代表、米国のウィットコフ中東担当特使を始めとする各国要人と電話会談を行い、イランとIAEA間の合意について説明するとともに、地域の緊張緩和を促進するエジプトの外交努力を強調した。
評価
今般のイランとIAEAの査察合意におけるエジプトの外交的仲介は、エジプトにとって2つの大きな意味を持つ。
1つ目はイランとの関係正常化への前進である。エジプトとイランは1979年以来、外交関係が断絶状態にある。関係悪化の原因は、1979年のイラン革命の際、エジプトがイラン国王の亡命を受け入れたことと、同年エジプトがイスラエルと平和条約を締結したことにある。それ以降、関係修復に向けた動きはあったものの、イランがイスラーム主義勢力を支持してきたことが、エジプトとの関係をしばしば悪化させてきた。
しかし、2023年にイランとサウジアラビアの国交が回復すると、エジプト、イラン両国で関係改善が模索されてきた。今年の6月には、テヘランにある「ハーリド・イスラームブーリー通り」の名前が改名されることが正式に決定された。ハーリド・イスラームブーリーは、エジプトのサダト大統領を殺害した人物であり、その名前を冠した通りの存在は、両国の関係正常化を妨げる要因の一つとなっていた。エジプトメディアは、イランがこの通りの名前を変更することは両国の和解に向けた動きであると報じていた。今般のエジプトの仲介と、イラン首脳からの謝意の表明は、関係正常化に向けた流れを具体的に後押しする出来事となった。
もう1つは、エジプトの地域的役割の重要性を欧米諸国に示せたことである。これは単に地域におけるエジプトのプレゼンスを高めるだけではなく、エジプトが米国、EUから受ける援助、融資とも関連している。
エジプトはイスラエルとの平和条約を期に、米国から経済・軍事的援助を受けてきた。2024年には13億ドルの援助を受けているが、その際にはエジプトの人権状況を理由に全額供与が米国議会で問題視された。最終的には全額供与が承認されたものの、それは人権状況が改善したからではなく、人権よりもガザ問題などにおけるエジプトの仲介的役割が重視されたためである。
なお、人権を重視するバイデン政権時代、シーシー大統領は大統領恩赦委員会の再開を決定し、それ以降、宗教的祭日等の機会に恩赦を積極的に行ってきた。トランプ政権が発足した今年2025年にも、1月に4466名、6月に2215名、7月に1056名が恩赦を受けている。トランプ大統領自身はこれまで援助と人権を関連付ける発言をしていないが、こうした動きはエジプトにおける人権状況の改善を国際社会にアピールする意図があると考えられる。
他方、今年4月に欧州議会が40億ユーロの対エジプト融資を承認した際も、エジプト当局がジャーナリスト、市民を日常的に攻撃しているとして、エジプトの人権状況を批判する声が上がった。最終的に、「地域安定化に向けたエジプトの努力」が重視され賛成452、反対182、棄権40で承認されたが、ガザ問題等におけるエジプトの仲介能力に疑問符がつくような状況になれば、そのような批判はエジプトにとって無視できないものとなるであろう。
イランをめぐる情勢はイスラエルも関係するため、今般のエジプトによる仲介が最終的に恒久的な地域の安定化につながるかは不透明である。しかし、米国、欧州とイランを繋ぐ「地域安定化のハブ」としてのエジプトの役割を国際社会に再確認させたことは、人権状況の改善が進まないエジプトとって、戦略的にきわめて大きな意義を有すると言える。
(研究員 平 寛多朗)
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