№50 エジプト:日本企業誘致とエジプトの戦略
2025年8月18日、アフリカ開発会議(TICAD)に出席のため訪日したマドブーリー首相は日本企業とエジプトの間で交わされた12件の協定・覚書の署名式に立ち会った。署名した主な企業は次である。カシオ、スプリックス、ヤマハ、伊藤忠、豊田通商。また東京都とはグリーン水素、文部科学省とは教育分野でそれぞれ覚書を締結した。
19日、マドブーリー首相は東京で開催されたエジプト―日本投資フォーラムに出席し、基調講演で、エジプトが肥沃な土地を有しアグリビジネスに適していること、さらに湾岸・アフリカ・欧州市場への物流ルートを有していることを強調した。
22日には、横浜で開催されたTICAD出席のマージンで、石破首相と会談し、スエズ運河経済特区に日本企業向けの工業団地を設立したいとの意向を表明した。同様の呼びかけを中野国交相との会談でも行った。さらに豊田通商の今井斗志光社長と会談し、同特区への投資を求めた。
評価
今般のマドブーリー首相の訪日に際して誘致が行われたスエズ運河経済特区は、スエズ運河に面する4つの工業地区と6つの港から構成されており、政府が推進する巨大国家プロジェクトの一つである。同特区の重点分野は、繊維、自動車、データ、物流、太陽光発電、グリーン水素、アグリビジネスなど計16分野に及ぶ。今般の訪日では、教育分野に加えて、経済特区が重視する分野への協力、投資の呼びかけが行われた。
エジプトは、特に自動車関連のさらなる投資を、日本から呼び込むことを狙っているとみられる。17日に現地メディアは、2025年上半期にエジプトで生産された外国車両の台数が数十年ぶりに輸入車を上回ったと報じた。国内市場では中国車が圧倒的シェアを占めるものの、メーカー別では日産が首位に立っている。これは日本車の人気を示すものであり、エジプトとしては日本企業の現地生産拡大によって価格引き下げを図ろうとしている。
なお、外国企業の経済特区への誘致活動は日本に限らず、他国に対しても積極的に展開されている。2024年11月にはトルコ企業と5100万ドルの契約が結ばれ、同地区において既製服に関するプロジェクトが始動した。2025年5月には1億5000万ドルを投資した中国工場の開所式が行われた。さらに同月26日には、シーシー大統領が同地区に米国企業向け工業団地を設立することに関心を示した。スエズ運河経済特区ではないが、今月5日にはスエズ運河沿いのイスマーイーリーヤで中国とトルコの企業9社が4160万ドルを投資すると発表された。
こうした外国企業の現地生産化の狙いの一つは、新規雇用の創出である。統計局は8月16日、エジプトの人口が1億800万人に達したと発表した。また12日の発表によれば、18~29歳の人口は2130万人で、全体の約19.9%を占める。こうしたデータを踏まえ、今年4月に開催されたエジプト―フランス・ビジネスフォーラムで、シーシー大統領はエジプトの人口の60%が40歳未満であり、非常に強力な労働力となっていると述べた。これはフランス企業へのアピールであると同時に、同年齢層における余剰労働力の大きさを示唆しているともいえる。増加し続ける労働力人口、特に若年層の働き手を吸収するためには、日本、米国、中国といった経済大国の企業による現地生産の拡大が不可欠となる。
スエズ運河経済特区は若年層の労働力を吸収するのと同時に、エジプトをアフリカ、ヨーロッパ、アラブ諸国における産業ハブへと押し上げる潜在力を有している。しかし、それは地域的な平和を前提とするものである。同特区は紅海と地中海を結ぶ要衝に位置するからこそ、その経済的優位性が発揮される。逆にスエズ運河の治安が不安定化すれば、この優位性は失われる。また、エジプト国内の政治的安定も極めて重要な条件となる。こうしたことを踏まえつつ、同特区を通して経済的発展を目指すエジプトは、今後もガザやイエメンをはじめとする地域情勢の安定化に積極的に関与していくとみられる。
(研究員 平 寛多朗)
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