№48 エジプト・ヨルダン:「大イスラエル」構想に対する両国の反応
12日、イスラエルのネタニヤフ首相がインタビューの中で、いわゆる「大イスラエル」構想に対して「非常に執着している」と発言した。
この構想は、国際的に認められている現在のイスラエル領のみならず、ヨルダン川西岸地区やガザ地区に加え、エジプトのシナイ半島やヨルダンの一部、さらにゴラン高原を含めた領域を視野に入れたものだと考えられる。そのため、領土の一部が脅かされかねないエジプト、ヨルダンから激しい非難声明が連日出されている。
評価
イスラエルの隣国である、エジプトとヨルダンはかねてより、「自発的」であれ強制的であれ、パレスチナ人の移住は「レッドライン」であると述べてきた。自国領の一部が併合されかねない今般の発言はそれ以上のものであり、到底容認できるものではない。
特にヨルダンの反発は激しく、「大イスラエル」構想が報じられた翌日には、政府機関だけでなく各種団体から出された数多くの非難声明が、政府系メディアに掲載された。15日には、ムーマニー政府広報担当相が「私たちはこの敵対的な言葉に対して何もしないということはなく、ヨルダンの安全保障を守るために必要なあらゆる手段をとる」と述べている。
ヨルダンほどではないが、エジプトの政府系メディアも同国が「大イスラエル」構想を拒否する姿勢を報じている。15日には、アブドゥルアーティー外相が、各国外相や国際機関の中東担当者と電話会談をし、今般の発言が地域の安全保障にとっていかに危険なものであるかを訴えている。18日には、「大イスラエル」という幻想を通して、パレスチナ問題を消滅させようとしていると同外相は激しく非難した。
こうした反発が相次ぐ一方、エジプトとヨルダンは、今回の発言の背景にネタニヤフ首相の支持率低下があると見ている。15日にラジオ番組に出演したヨルダンのムーマニー政府広報担当相は、ネタニヤフ首相の発言は自身の政治的苦境と、極右を支持基盤とした立場の悪化を如実に示していると述べている。18日にも、今般の発言はイスラエルの首相と極右連立政権にとっての内政上の危機を反映したものであるとの見解を示した。同様にエジプト国家情報局のラシュワーン局長は、19日、イスラエル国内の混乱を指摘し、ネタニヤフ首相は極右勢力に頼る一方で野党や大衆の抗議活動、そして軍からの圧力に直面していると述べている。これは、国内の求心力を失ったネタニヤフ首相は、政権を維持するために極右勢力の支持が必要であり、それが今般の発言につながったという見方である。逆に言えば、極右勢力が好むような過激な発言をしなければ、政権は崩壊してしまうということである。
カタルを拠点とする報道局アルジャジーラは、18日、ガザでの軍事作戦拡大などに反対する大規模な抗議行動がイスラエル国内で発生したと報じた。先のエジプトとヨルダンの発言は、このようなイスラエル国内の支持率低下を念頭に置いている。
これらのことを背景として、「大イスラエル」構想によって自国領土が脅かされる事態となったエジプトとヨルダンは、これを機としてガザ地区における停戦合意を実現させるため、イスラエルに対する圧力を強めている。
18日、アブドゥルアーティー外相は、パレスチナ自治政府のムスタファー首相とラファフ検問所で共同会見を開き、人道支援のためにラファフ検問所が使用できないのはイスラエルがパレスチナ側のゲートを開けないからであると主張した。ラファフ検問所はガザ地区とエジプトをつなぐ検問所であり、この検問所を封鎖することでガザのジェノサイドに加担していると国内外からエジプトは非難されてきた。同日CNNで報道されたインタビューの中でも、エジプトがガザへの人道支援を妨害しているのは「大きな嘘」であり、責任はイスラエルにあると強調している。これは、パレスチナの人道的危機に関するエジプトへの非難をかわすのと同時に、イスラエルの責任を明確にすることで、国際社会およびイスラエル国内からネタニヤフ政権を孤立させ、圧力を強める狙いがあると思われる。
ヨルダンでは、エジプトのような示威的な活動はみられないが、19日にネタニヤフ首相による「大イスラエル」の発言はイスラエルを孤立させるだけであるとハッサーン首相が発言している。エジプトとヨルダンの政府首脳にとって、今般のネタニヤフ首相の発言は、政権を維持するための苦肉の策として映っている。
(研究員 平 寛多朗)
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