中東かわら版

№47 イスラエル:「大イスラエル」主義表明の思惑

 2025年8月12日、ネタニヤフ首相は国内メディア(i24NEWS)のインタビューで、ガザ戦争とその後の構想に関し、自身が「世代を超えた使命」を負っていると説明した上で、ヨルダンとエジプトをはじめ、周辺諸国を含んだ一帯を自国の領土と見なす、いわゆる「大イスラエル」主義に、自身の構想が「大いに」関連する旨を発言した。

 ガザ戦争後の計画については、ガザ地区のパレスチナ住民の受け入れについて複数の国々と協議中であることを明かし、「パレスチナ人を憂い、助けたいならば門戸を開くべきだ」と呼びかけた。同首相はどの国と交渉しているかは明かさなかったが、イスラエル高官がCNNに対し、南スーダン、ソマリランド(ソマリア北西部)、エチオピア、リビア、インドネシアの5カ国を挙げた。なお交渉の進捗については不明で、5カ国の中でこれを認めている国はない。

 

評価

 古代イスラエルの最大版図であった「エレツ・イスラエル(イスラエルの土地)」を今日の国民国家イスラエルの領土としようという、「大イスラエル」主義は、19世紀以来、イスラエル建国と中東戦争を通じて、イスラエルの領土確立・拡大の推進力となってきた。集団農場(キブツ)での活動に代表される社会主義的シオニズムと対立するリクードの思想的基盤でもある。したがって、同党の党首であるネタニヤフ首相の共感自体は不自然ではない。

 この点で重要なのは、周辺アラブ・イスラーム諸国だけでなく、国際社会からも反感を買うことが明らかな表明をなぜ同首相がしているかである。国内向けには、連立政権を支える宗教シオニズム諸政党との連携強化が挙げられるが、タイミングとしてはより国外向け、すなわちアラブ諸国が中心になって醸成されている、パレスチナ国家承認のムードへの拒否を示すことにあるだろう。

 現実的な問題として、イラク、エジプト、クウェイト、サウジアラビア、トルコ、パレスチナ、ヨルダン、レバノンをまたぐ領土拡張は不可能であり、米国ですらこの実現を後押しはしないだろう。一方、イスラエルは理想的な、難易度の高い努力目標への意欲を示し、これを取り下げることでもって周辺国や国際社会への歩み寄り、自国に有利な状況を作り出してきた(例えば、2020年、ヨルダン川西岸地区併合計画を中止することで、UAEとの国交正常化を実現したことなど)。「大イスラエル」主義の完遂は不可能という前提で、それ以下ではあるが現状以上の状況を、イスラエルが戦後のガザ地区に対して構想していることは間違いない。周辺のアラブ・イスラーム諸国に対しては、「大イスラエル」主義の制止に成功したという自己肯定が可能な状況を与えれば、おそらく十分との考えだろう。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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