№45 イラク:クルディスタン地域からの石油輸出再開の合意
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラクトルコ
- 公開日:2025/08/15
2025年8月14日、クルディスタン地域政府(KRG)の天然資源省とイラク政府の石油省は、イラク北部のKRG支配地域からの石油輸出再開に関する枠組みに合意した。この合意に基づき、KRG支配地域で生産される原油28万バーレル/日(bpd)のうち、5万bpdがイラク北部で消費され、残りの23万bpdがイラク国営石油販売会社(SOMO)に引き渡された後、イラク・トルコ間の石油パイプラインを通じて国外に輸出される予定である。
イラク・トルコ間の石油パイプラインについては、トルコが2014~2018年にKRG支配地域から石油を輸送する際にイラク政府の承認を得なかったことから、2023年3月に国際仲裁裁判所がトルコに対しイラク政府への約15億ドルの損害賠償を命じた。同判決を受け、同年5月にパイプラインの操業は停止した。その後約2年にわたって石油輸出の収益配分をめぐる交渉がKRG・イラク政府間で行われ、今般の再開合意に至ったものの、実際の操業再開にはイラク・トルコ間での協議も必要とされる。
評価
KRGは2003年のイラク戦争終結後、イラク政府とは別に、北部支配地域で独自に石油開発に取り組みながら、トルコとのエネルギー協力を積極的に進めた。2013年にイラク・トルコ間の石油パイプラインが接続され、2014年5月にKRG支配地域からトルコ南東部のジェイハン(Cheyhan)港に向けた原油輸出が開始された。同地域の産油量は2017~2022年の期間、約40~50万bpdで推移し、主要輸出先は欧州諸国(イタリアやギリシャ、スペイン、ルーマニアなど)や中国、そしてイスラエルであった。ほぼ全ての原油を国外から調達しているイスラエルにとって、石油の調達先を複数確保することは非常に重要である。このため、イラク・トルコ間の石油パイプラインが再び操業すれば、イスラエルがイラク産原油の再輸入に動く可能性がある。
この先、石油パイプラインの操業再開に向けたイラク・トルコ間の協議の行方が注目される。トルコは1973年のキルクーク=ジェイハン・パイプライン協定について、第22条(満了の1年前までに終了を通告しない場合は5年間自動延長される規定)に基づき、満了1年前にあたる2025年7月20日に終了を正式通告し、自動延長(5年)を回避した。これにより、同協定は予定どおり2026年7月に失効する見通しである。この判断の背景には、現行協定の条項が2023年の国際仲裁でトルコ側に不利な裁定を招いた経緯がある。こうした経験を踏まえ、トルコは同様のリスクを回避するため、国際法上の拘束力を維持しつつ、状況の変化に応じて条件や運用方法を調整可能な包括的エネルギー協定の締結を目指している。
そして、トルコは原油のみならず、天然ガス・石油化学・電力分野を統合した「エネルギー・ハブ」構想を推進しようとしている。またトルコは、イラク南部バスラ方面からの輸送網を北部キルクーク経由で統合する案や、140~160万bpd規模まで拡大する輸送能力を保証する仕組みも視野に入れており、今回のKRG・イラク政府合意を契機に、地域のエネルギー輸送網全体を再編する狙いがあるとみられる。
【参考】
「ガザ危機とイスラエルのエネルギー安全保障」『MEIJコメンタリー』No.10。
(主任研究員 高橋 雅英)
(主任研究員 金子 真夕)
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