中東かわら版

№48 パレスチナ:ガザ地区でポリオ発生の兆し

 ガザ地区の保健省は、UNICEF(国際連合児童基金)と合同で行った下水のサンプル調査の結果、ポリオ・ウイルスが発見されたと発表した。調査はガザ地区の避難民キャンプ、避難所、住宅地近辺の下水で行われたもので、ガザ地区の保健省はウイルスの発見とポリオ蔓延の恐れについて「保健上の悲劇」が生じることに警告した。

 2023年10月7日以来のイスラエル軍の攻撃により、ガザ地区では下水道を含む社会資本が破壊されている上、燃料の搬入もままならないことから下水処理施設がほとんど稼働していない。その結果、避難民キャンプや住宅の周辺で下水が路上に溢れ出るようになっている。また、山積みされた廃棄物や建物の残骸など、病原体を増殖・拡散させる恐れのある場所もいたるところに広がっている。

評価

ポリオ・ウイルスは経口感染する可能性があるウイルスで、イスラエル軍はガザ地区で同ウイルスが検出されたとの報を受け、ガザ地区で活動する兵士らにワクチンの投与を開始したと発表している。これに対し、パレスチナの当局や国際的な援助機関はガザ地区で必要とされる基本的な食料や燃料を十分に搬入できない期間が続いており、ここで新たな病原体の感染予防や感染者の治療のための手立てを講じることは不可能といってよい。ガザ地区では、食料や医薬品が欠乏し、不衛生な環境の中で既に様々な疾病の流行や発生の可能性が報じられている。ここで新たにポリオが蔓延する可能性が生じたことにより、住民の間に恐怖感が広まっている。物資の不足や疾病の蔓延だけでなく、不安や恐怖の広まりという心理的な要因もガザ地区の人民の環境を悪化させる要因となるだろう。

(協力研究員 髙岡 豊)

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