№47 UAE:新たな原子力発電所の建設に関する報道
- 2024湾岸・アラビア半島地域アラブ首長国連邦
- 公開日:2024/07/22
2024年7月17日、『ロイター通信』は、UAEが電力需要の増加に対応するため、新たな原子力発電所の建設を検討していると報じた。UAEの原発計画では、韓国製のバラカ原発(設備容量140万キロワットの原子炉4基)がアブダビで建設済みであり、今年中に全面稼働する予定である。今次報道によると、原発新設の契約額は数百億ドルにのぼり、中国やロシア、米国などの企業による応札が予想されている。
新たな原発建設について、UAEのハマド・カアビー国際原子力機関(IAEA)常駐代表は、政府は入札プロセスに関する最終決定を下していないが、積極的に検討している点を強調し、今年中に入札が行われる可能性があると述べた。
評価
UAEの原子力政策は、UAE初の原子力技術者であるカアビーIAEA常駐代表が牽引してきた。彼は2008年に原子力の平和利用に関する白書を取りまとめ、UAEの原発導入の立役者となった。2011年の福島第1原発事故以後、安全性に関する懸念や高額な建設費に伴う資金不足を理由に、世界各国の原発計画が相次いで頓挫する中、UAEは10年以上にわたり原発事業への強いコミットメントを維持し、2021年にバラカ原発の稼働を成し遂げた。2023年、原子力発電の発電量は約32テラワット時(TWh)を記録し、総発電量の19.5%に達した。今年のバラカ原発4号機の商業運転により、UAEの発電比率に占める原子力発電の割合は25%に増加する見通しである。
UAEが原発の新設を検討する背景には、発電用ガスの消費を抑えてガス輸出量を確保することや、カタル産ガスへの依存度を下げることあると考えられる。電力需要が高まるにつれて、主力電源のガス火力発電への天然ガス供給量も増加することが予想される。一方、UAEは2030年までに天然ガスの純輸出国になることを目指している。原子力(並びに太陽光)の導入を通じて電源構成を多角化することで、天然ガスの輸出割り当て分を増やし、ガス収入の拡大を試みている。
また、新規原発が2032年に稼働する可能性がある点は、同年頃に契約更新を控えるカタルとのガス供給契約を意識したものであると考えられる。カタル産の輸入量はUAEの国内消費量の約3割に達するが、液化天然ガス(LNG)増産計画を進めるカタルがこの先、自国の経済的利益を優先し、UAE向けのパイプライン経由のガス輸出量を減らす可能性も否定できない。このため、UAEはカタル産ガスに頼らない電力供給体制の確立を急務と捉えているだろう。
【参考】
「UAE:ルワイスLNGプロジェクトの最終投資決定」『中東かわら版』No.34。
「UAEのクリーンエネルギー政策と天然ガス産業の動向」『中東分析レポート』R23-13。※会員限定。
「カタルのLNG増産計画と中東域内情勢の影響」『中東分析レポート』R24-02。※会員限定。
(主任研究員 高橋 雅英)
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