№95 パレスチナ:ガザ地区での援助物資略奪
UNRWAは、2024年11月16日にガザ地区で109台からなる援助物資搬送車列が略奪にあい、98台が奪われたと発表した。国連の報道官によると、車列はエジプトとの国境に近いカラム・アブー・サーリム通過地点からガザに入ったが、16日の略奪の被害は過去最悪水準となった。
事件について、ガザ地区の内務省は18日にラファフで盗賊団の討伐作戦を行い、少なくとも20人を殺害したと発表した。内務省筋によると、討伐作戦は諸部族が編成した委員会との協力で実施された。同筋は、治安機関が盗賊団と占領軍との間の通信を傍受しており、イスラエルの治安機関が盗賊団に略奪を支持し、彼らの治安上の保護を与えていると指摘した。
ガザ地区での支援物資の略奪については、アメリカの『ワシントン・ポスト』が援助団体幹部の話などを基に要旨以下の通り報じている。
*盗賊集団がガザ地区で援助物資を盗み、イスラエル軍の制圧地で自由に活動している。略奪が、ガザ地区南部での援助物資配布の最大の障害となった。
*イスラエル当局は、ガザ地区での車列警備の強化についての要望のほとんどを拒否するとともに、ガザ地区の文民警察による車列の警備も拒んでいる。盗賊団は、カラム・アブー・サーリム通過地点の周辺で援助物資を積んだトラックの運転手を殺害・誘拐している。
*国連の内部資料によると、ガザ地区での窃盗団はイスラエル軍による黙認に乗じて活動している。窃盗団の一つの幹部は、イスラエル軍の制圧地域に軍事基地のような拠点を構築した。ヤーシル・アブー・シャバーブなる者が窃盗団の主要人物であり、同人をはじめとする窃盗団は、イスラエル軍が彼らを保護しているのでないとしても、同軍が彼らを黙認していることに乗じている。
*イスラエル軍は、援助物資の略奪を許可したり黙認したりしているとの批判を否定し、テロリストへの攻撃に集中しつつ援助物資の略奪に対する措置を実施していると表明した。
*アメリカ政府の高官は、略奪がガザ地区での援助の配布の最大の障害だが、ハマースは略奪の背後にはいないと述べた。援助機関の幹部は、ガザ地区の北部でも南部でも、ハマースは援助の実施計画に干渉していないと述べた。
一方、「世界の医療団(MDM)」、「オックスファム」、「ノルウェー難民評議会」など国際的なNGOの29団体は、イスラエル軍が援助物資の略奪を取り締まろうとするガザ地区の警察への攻撃、地区内での道路の破壊、通過地点の大半の閉鎖を通じて「略奪を奨励している」と非難する声明を発表した。声明は、イスラエル軍は援助車両の略奪にも、武装盗賊団による人道団体からの金品強奪の取り締まりにも失敗していると指摘した。
評価
今般問題となっているのはガザ地区南部での事件であり、10月初頭からイスラエル軍に封鎖されているガザ地区北部の事件ではない。つまり、ガザ地区では援助物資の搬入が「許可」されているはずの地域でも搬入される物資の量が必要量に達していないうえ、そうした乏しい物資さえも略奪被害にあって必要とする人々のもとに届かない状態だということだ。ガザ地区に搬入される物資については、イスラエル側からハマースをはじめとするパレスチナ諸派による悪用や横流しについての非難もあったが、上記のNGO諸団体の反応を見る限り問題はパレスチナ諸派による悪用ではなく、制圧地域の治安維持に無関心で、盗賊団を放任してさえいるように認識されているイスラエル軍の側にあるようだ。
ガザ地区については、2023年秋にイスラエル軍が侵攻して以来誰が、どのように管理するのかについての議論や構想がほとんどないまま、社会基盤や行政機関や地域社会が破壊され続けている。イスラエル軍には、長期間にわたってガザ地区を制圧し続ける方針もあるようだが、パレスチナ人の行政機関やUNRWAのような援助機関の関与や正統性を認めないままガザ地区を制圧し続けるのならば、同軍が治安や民生の責任を完全に負う他ない。ガザ地区をはじめ、現在の紛争を止める「停戦」の実現が待たれることは言を俟たないが、その「停戦」は単なる目的ではなく、戦闘が停止した後の治安と住民の生活の再建、ひいては紛争の原因自体の解消に向けた手段の一つと位置付けられるべきだろう。
(協力研究員 髙岡 豊)
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