中東かわら版

№51 UAE:中国企業とのエタン及びアンモニア輸送船の造船契約

 2024年7月23日、アブダビ国営石油会社(ADNOC)傘下のADNOCロジスティクス・サービスは、中国企業「万華化工」との合弁会社「AWシッピング」を通じて、中国企業「江南造船」と総額約19億ドルの造船契約を結んだと発表した。契約署名式は北京で行われ、UAE側からはジャービル産業・先端技術相兼ADNOC総裁が出席した。今次契約では、江南造船がADNOC向けに、最大船型(積載可能量9.3万立法メートル)のエタン輸送船9隻、最大船型(9.3万立法メートル)のアンモニア輸送船2~4隻を建造する計画である。

 同契約を受け、ADNOCロジスティクス・サービスは、エタン及びアンモニア輸送船の調達が低炭素エネルギーの輸送能力を強化し、エネルギー転換を支援するとともに、同社にとって大きな収入源につながる点を強調した。同社は新造エタン輸送船を活用して、各国の海運会社と20年間の定期傭船契約を締結することで、約40億ドルの用船料収入を見込んでいる。

 

評価

 ADNOCのエネルギー輸送船の調達動向では、今月初めに韓国企業「サムスン重工業」及び「ハンファ・オーシャン」とのLNG輸送船8~10隻の建造契約(総額25億ドル)が発表されたばかりである。LNG輸送船を韓国勢に発注した一方、ADNOCは低炭素エネルギーの輸送船の確保に向け、中国企業を選定した。UAEが韓国と中国の双方に造船契約先を振り分ける動きは、カタルのLNG船建造プロジェクトでも見られ、UAE、カタルとも重要な資源輸出相手国である韓国や中国との関係を拡大させようとしている。

 この先、UAEは水素運搬船の調達にも動き出す可能性がある。UAEの「国家水素戦略2050」では、年間生産量が2031年に140万トン(グリーン水素100万トンとブルー水素40万トン)、2040年に750万トン、そして2050年に1500万トンに増加する見通しだ。UAEは水素を国内供給だけでなく、新たな資源収入源として積極的に輸出すると考えられるため、運搬に不可欠な水素輸送船を数多く確保する必要があるだろう。世界で水素輸送船の実用化に向けた動きが活発化する中、UAEは同じく水素輸出を目指す他国に先行するため、造船契約の発注先候補となるパートナー国・企業との関係強化を図っていくと予想される。

 

【参考】

「UAE:ムハンマド大統領の韓国・中国訪問、UAE・韓国間の自由貿易協定の締結」『中東かわら版』No.30。

「カタル:LNG船の建造プロジェクト、中国企業による大型船の造船受注」『中東かわら版』No.16。

(主任研究員 高橋 雅英)

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