№41 イラン:第14期大統領選挙の決選投票結果が発表、ペゼシュキヤーン候補が当選
- 2024イラン湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2024/07/08
2024年7月5日、イランで第14期大統領選挙の決選投票が実施された。7月6日の内務省発表によれば、得票第1位はペゼシュキヤーン候補(元保健相;改革派)、第2位はジャリーリー候補(元国家最高安全保障評議会(SNSC)書記;保守強硬派)であったことから、ペゼシュキヤーン候補が勝利を収めた。今後、宣誓式を経て大統領に就任することになる。今次投票率は、第1回投票の39.9%を上回る49.7%だった。
今次選挙結果の概要は以下の通りである。
1.投票総数等
- 有権者数:61,452,321人
- 投票総数:30,530,157票
- 投票率:49.7%
2.候補者別得票数一覧
候補名 |
得票数 |
得票率 |
ペゼシュキヤーン候補 |
16,384,403票 |
53.7% |
ジャリーリー候補 |
13,538,179票 |
44.3% |
無効票 |
607,575票 |
2.0% |
(出所)『IRNA通信』を元に筆者作成。
※注1:パーセンテージ表記は小数点第2位切り上げ。
評価
ペゼシュキヤーン候補は、1954年イラン西アゼルバイジャン州マハーバード生まれの心臓外科医(タブリーズ医科大学医学部卒)という経歴を持つ人物で、1994~2000年にタブリーズ医科大学学長を務めた。その後、ハータミー政権期の2000~2001年に保健省厚生担当次官に任用されると、2001年~2005年まで保健相を務めた。以後、2008年より5期にわたり国会議員(東アゼルバイジャン州タブリーズ等選挙区選出)を務め、2016~2020年には国会第一副議長も務めた。政治思想的には改革派に分類される。民族的出自については、イラン系アゼルバイジャン人の父親と、クルド人の母親の元に生まれた。
決選選挙は、保守強硬派のジャリーリー候補と、改革派のペゼシュキヤーン候補の間での一騎打ちとなったことから、接戦が予想された。今回ペゼシュキヤーン候補が勝利を収めた背景の一つには、第1回投票で投票所に足を運ばなかった、社会変革に期待する層からの支持を集めた点が挙げられる。前回に比べて投票率が約10ポイント上がった点はこの裏付けとなる。もう一つの要因は、保守強硬派の支持層が分裂し、一部の支持者らがペゼシュキヤーン支持にまわった点が挙げられる。第1回投票で敗れたガーリーバーフ候補は6月29日、自らの支持者らに革命の道を護るためジャリーリー候補に票を投じるよう呼びかけた。それにもかかわらず、第1回投票時の選挙キャンペーンにおいてガーリーバーフ支持だった層がペゼシュキヤーンに鞍替えした事例が散見された。ハーメネイー最高指導者に近いハッガーニヤーン氏もペゼシュキヤーンへの支持をXに投稿するなど、保守強硬派陣営内に統一的な見解が不在だった可能性がある。第1回投票において保守強硬派候補の一本化がなされなかった点に鑑みても、改革派のペゼシュキヤーン候補が時間を追う毎に民族的マイノリティーや無党派層を中心に各地で支持を広げた一方、保守強硬派が「自滅」した選挙だったと評価することもできよう。
将来的にイラン新大統領就任が内外政に与える影響に関し、同国では最高指導者が最高権力者であるため、大統領が交代しても大きな変化は生じないという見方もある。例えば、「改革派」の表現から受ける一般的な印象とは異なり、同派は革命体制そのものを否定するわけではなく、あくまでも体制のエスラーフ(改革;改良;修正)を求める政治潮流である。このため、従来の諸政策が180度転換するということを意味しないとみられる。
他方、ペゼシュキヤーン候補は市井の人々の声に耳を傾ける政治姿勢を重視してきた経緯があることから、仮に2022年秋以来発生したヒジャーブ(頭髪を覆うヴェール)抗議デモのような反体制運動が国内で盛り上がった場合に、同候補が体制と人民の間で緩衝材の役目を果たす可能性はある。対外的には、核合意再建に向けて、新政権が欧米との対話路線を再び打ち出すか否かが注目される。米国大統領選挙が本年11月に予定される中、イランとしては次期米国大統領を見極めながら交渉戦略を練ることになるだろう。これに関連し、直近の注目ポイントとしては、新政権の対外姿勢を推し量ることができる外相ポストにザリーフ元外相やアラーグチー元外務事務次官(元駐日大使)ら国際協調路線を掲げる人物が指名されるかどうかが挙げられる。
【参考情報】
「イラン:第14期大統領選挙の第1回投票結果が発表、決選投票へ」『中東かわら版』No.38、2024年7月1日。
「イラン:第14期大統領選挙実施前の国内情勢」『中東かわら版』No.36、2024年6月24日。
「イラン:第14期大統領選挙の最終候補者6名が発表」『中東かわら版』No.32、2024年6月10日。
「イラン:6月28日実施予定の大統領選挙に向けた立候補者登録受付が終了」『中東かわら版』No.29、2024年6月4日。
(研究主幹 青木 健太)
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