中東かわら版

№33 イスラエル:ガンツ無任所相の戦時内閣離脱とその影響

 2024年6月9日、戦時内閣のガンツ無任所相(政党連合「国民連合」代表)は、ネタニヤフ首相を「(ガザ地区での)「真の勝利」の妨げになっている」と非難し、同首相が率いる戦時内閣からの離脱を表明した。

 ガンツ無任所相はハマースの排除を前提としたガザ地区での軍事展開を支持する立場にあるが、同時に明確なロードマップを伴った軍事作戦、超党派的な政治協力、次回の選挙日程の早期決定をネタニヤフ首相に求めてきた。そしてこれらを拒否してきたネタニヤフ首相に対して先月、6月8日までに戦後のガザ地区統治計画が提示されなければ戦時内閣を離脱すると予告した。今次の離脱表明はこれを実行したものである。

 戦時内閣はネタニヤフ首相、ガラント国防相、ガンツ無任所相の3人の閣僚の他、投票権を持たないオブザーバーである3人の無任所相からなる。ガンツ無任所相は離脱に際して、ガラント国防相に対して「正しいことを行え」と呼びかけた。

 ガンツ無任所相の離脱表明を受けて、ネタニヤフ首相は戦時内閣に留まるよう演説やSNS上で呼びかけた。一方、連立与党を構成する「ユダヤの力」党首、ベン・グヴィル国家安全保障相は、自身の入閣も示唆しつつ、「早期の人員補充」をネタニヤフ首相に提案した。

 

評価

 かねてよりネタニヤフ首相との意見の対立が目立っていたとはいえ、ガンツ無任所相が正式に戦時内閣からの離脱を表明したことは国内外で大きく報じられた。一方、彼が率いる「国民連合」は野党であるため、ネタニヤフ首相(リクード党)の立場及び連立政権への影響は大きくないだろう。一方、ガンツ無任所相が座っていた中道右派の席を、「ユダヤの力」に代表される宗教シオニスト政党が埋めることになれば、戦時内閣自体が強硬化する可能性がある。宗教シオニスト政党の主たる関心事である西岸地区や、レバノン南部への戦禍拡大が懸念される。

 戦時内閣の存続によって自身の政治生命を延命させてきた面もあるネタニヤフ首相だが、先月末に国内メディアが実施した世論調査では、「誰が首相にふさわしいか」という質問でガンツ無任所相に勝利した(ネタニヤフ首相36%、ガンツ無任所相30%)。昨年12月の同調査の際には45%対27%でガンツ無任所相に敗北していたことを考えれば、実のところネタニヤフ首相には今、追い風が吹いているとも言える。

 そうした中で、ネタニヤフ首相は公の場でガンツ無任所相に強く慰留を求めた。ガザ地区での軍事展開に対する海外からの非難が一層強まる中、中道右派と宗教シオニストの間で板挟みになっている自身の状況を敢えて晒すことで、戦争責任の分散を図る狙いもあるだろう。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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