№32 イラン:第14期大統領選挙の最終候補者6名が発表
- 2024イラン湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2024/06/10
2024年6月9日、第14期大統領選挙の最終候補者6名が発表された。6月3日の立候補者登録受付終了後、護憲評議会による資格審査を経て、内務省選挙本部が予定を早めて公表したものである。今後、最終候補者6名は選挙キャンペーン期間を経て、6月28日に第1回投票日を迎えることになる。以下は、今般発表された最終候補者6名である。
表 第14期イラン大統領選挙(2024年)最終候補者リスト
氏名 |
現職 |
備考 |
モスタファー・プールムハンマディー |
闘士聖職協会事務局長 |
ゴム州ゴム出身;1959年生;元内相(2005-2008);元国家検査機構長官(2008-2013);元司法相(2013-2017);保守強硬派 |
マスウード・ペゼシュキヤーン |
国会議員(東アゼルバイジャン州タブリーズ、オスクー、アーザルシャフル選挙区選出) |
西アゼルバイジャン州マハーバード出身;1954年生;元保健相(2001-2005);第8~12期国会議員(2008-現在);改革派 |
アミールホセイン・ガージーザーデ・ハーシェミー |
副大統領兼殉教者・退役軍人財団理事長 |
ラザヴィー・ホラーサーン州ファリーマーン出身;1971年生;第8~11期国会議員(2008-2021);2021年大統領選挙得票4位;保守強硬派 |
アリーレザー・ザーカーニー |
テヘラン市長 |
テヘラン州レイ出身;1966年生;第7~9期及び11期国会議員(2004-2016;2020-2021);保守強硬派 |
サイード・ジャリーリー |
公益判別会議メンバー |
ラザヴィー・ホラーサーン州マシュハド出身;1965年生;元国家最高安全保障評議会(SNSC)書記(2007-2013);元核交渉責任者(2007-2013);革命防衛隊出身;2013年大統領選挙得票第3位;保守強硬派 |
ムハンマド・バーゲル・ガーリーバーフ |
国会議長 |
ラザヴィー・ホラーサーン州トルガベ出身;1961年生;元革命防衛隊空軍司令官(1999-2000);元治安維持軍(警察)司令官(2000-2005);元テヘラン市長(2005-2017);第11期国会議員(2020-現在);2005年、2013年、2017年に大統領選挙に出馬(落選・撤退);保守強硬派 |
(出所)公開情報を元に筆者作成。順不同。
評価
イランの選挙では、護憲評議会による資格審査で事前スクリーニングがなされることから、最終候補者に誰が残ったのかと同時に、誰が落とされたのかに注目することが重要である。今回の資格審査では、候補者は当初の80名から6名に絞り込まれた。大まかに見ると、保守強硬派5名、改革派1名という顔ぶれである。有力視されたラーリージャーニー元国会議長や、ジャハーンギーリー元第一副大統領(ともに保守穏健派といわれる)は今次の資格審査を通過しなかった。例えばラーリージャーニー元国会議長が最終候補者に名を連ねたならば、トップ争いを演じていた蓋然性は高かった。こうした状況をみると、護憲評議会はライーシー前大統領がいなくなったことで生じた「行政の長の空白」を埋めるべく、これまでと同じように革命の原則を着実に継承できる保守強硬派候補を優先的に残したようにみえる。
一方で、保守強硬派候補の一本化がなされていない点は、第1回投票で票割れを引き起こしかねない。保守強硬派候補には、ジャリーリー、ガーリーバーフ、ザーカーニー、ガージーザーデ・ハーシェミー、プールムハンマディーの5名がいる。ガーリーバーフがその経歴からも有力候補だといえるが、いずれの候補も充分な経歴を有しており泡沫候補とは見做せない存在である。このため、有権者の支持が分散する可能性は充分ある。唯一の改革派候補ペゼシュキヤーンに対し、変化を期待して票を投ずる有権者も現れよう。これらの事情に鑑みれば、投票日(6月28日)に至る過程で、新政権成立後の論功行賞人事を期待し、いずれかの候補者に支持を表明して選挙戦から撤退する者が現れることも想定される。
なお、今次大統領選挙が最高指導者の後継者選出に向けた準備と絡むのかどうかも注目されたが、イラン体制指導部は最高指導者の後継問題と今次選挙を切り分けて進める方針にしたと考えられる。最高指導者の資格要件には、(イスラーム法学者としての)学問的資質を備えていること(憲法109条)が挙げられている。このことから、最高指導者はイスラーム法学者である必要がある。他方、現時点において、今次選挙でイスラーム法学者が最終的に勝利を収める結果となるようには思われない。少なくとも、特定のイスラーム法学者を当選させるため、ライバル候補を軒並み失格にするような作意はみられない。体制指導部としては、有権者に一定程度の自由な選択肢を残し、「国民の信託の下で新たな行政の長が選ばれた」との過程を経て、早期に安定した体制を整備することを重視したものと考えられる。
【参考情報】
「イラン:6月28日実施予定の大統領選挙に向けた立候補者登録受付が終了」『中東かわら版』No.29、2024年6月4日。
「イラン:ライーシー大統領らが搭乗するヘリコプターが不時着、死亡が発表」『中東かわら版』No.25、2024年5月20日。
(研究主幹 青木 健太)
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