中東かわら版

№14 イラク:国会で同性愛などを禁止する法案を可決

 2024年4月27日、イラクの国会本会議(マンダラーウィー議長代行。定数329のうち170人が出席)は、「売春対策法(1988年法律8号)」の改正案を可決した。この法案については、アメリカを含む欧米の16カ国の大使館が改正阻止、議案の取り下げのためにイラクの政界の要人に圧力をかけており、アメリカの国務省は「イラクの国会が議決した同性愛を処罰する法律は、イラクでの人権と基本的な自由を脅かす。この法律は、イラク経済の多角化と海外からン投資誘致の能力を弱体化させる」と論評する声明を発表した。

  今般可決された法律には、「同性愛」、「スワッピング」などの「不道徳行為」に禁固10年~15年、「性転換」や「女装」に禁固3年~6年の罰則が科される規定がある。また、「イラクで売春や同性愛を助長するあらゆる活動と組織」を非合法化するとともに、「同性愛を助長する」行為には7年の禁固刑が科される。国会議長の広報局は、今般の法改正は社会の価値体系とイラクの子弟を性的逸脱の呼びかけから守るための必要な措置であり、問題行為を抑止し既存の法規の不備に対処したものだと発表した。

評価

 今般の改正案採決は、イラクのスーダーニー首相がアメリカを訪問(4月15日)し、両国の経済や安全保障関係の強化を協議し、アメリカ企業のイラクでの活動促進などを働きかけた直後の機微な時宜のものだ。これにより、現在空席となっている国会議長の選出問題のようなイラクの政局や諸政治勢力間の関係にも影響が出る可能性もある。また、改正案に賛成した諸会派は、アメリカを含む西側諸国が法改正を阻止しようと働きかけたり、今後の対イラク経済活動に影響が出る可能性を示唆して法改正を非難したりしていることに「内政干渉」であると反発している。イラクの国会では、アメリカが率いる連合軍のイラクでの任務や駐留について、連合軍の撤退を要求する会派も少なくない。これらの諸会派には、ヌジャバー運動など「イランの民兵」と呼ばれる民兵組織を擁したまま政治過程に参加している党派も含まれており、今般の法改正をめぐり欧米諸国に最も強く反発しているのがこれらである。イスラーム主義を標榜する政治勢力にとって、今般の法改正のような措置は正当かつ必要不可欠と認識されるため、「イランの民兵」を含む諸派とアメリカなどとの対立が一層先鋭化し、より広域的な治安情勢にも悪影響を与える可能性も想起すべきである 

(協力研究員 髙岡 豊)

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