中東かわら版

№10 イラン:革命防衛隊がイスラエル本土に攻撃を実施

 2024年4月14日、革命防衛隊はイスラエル本土に対する「誠実な約束」と称する軍事作戦を実行した。同隊の声明によれば、今次攻撃は4月1日に発生したイスラエル軍によるダマスカスにあるイラン大使館領事部に対する攻撃への報復に当たるもので、同隊は国家最高安全保障評議会、参謀本部、正規軍、国防軍需省等と調整の上で被占領地に対して幾十ものドローンとミサイルを発射した。イスラエル軍のハガリ報道官は、300個に及ぶドローン・ミサイルがイスラエルに対して発射されたが、99%を迎撃したと述べた。各種報道によれば、革命防衛隊が発射したドローン・ミサイルは、イスラエル南部の軍事基地及びゴラン高原に着弾し、基地の滑走路等に物的損害を与えた他、少女1名が負傷したようである。また、イエメンやイラクからもドローン・ミサイルが発射されたとの報道や、レバノンのヒズブッラーがゴラン高原にあるイスラエル軍基地にミサイル数十発を発射したとの報道も確認された。イスラエル軍による迎撃には、米国、英国、フランス、ヨルダン等も加勢したと伝えられた。

 同日、イラン国連代表部及び外務省は、今次攻撃は国連憲章51条に規定される自衛権の行使に基づくものであり、イスラエル軍によるダマスカスにあるイラン外交使節団への攻撃に対する反応だとした上で、この件は一区切りと思われる(The matter can be deemed concluded)との立場を公表した。また、仮にイスラエルが再び過ちを犯せば、厳しく対応すると警告した。同様の立場は、バーゲリー軍参謀長とサラーミー革命防衛隊総司令官からも示された。

 

評価

 4月1日にイラン大使館攻撃事件が発生し、イランによるイスラエルへの報復が警戒される中、革命防衛隊はイスラエル本土に越境攻撃を実行したことで所定の報復を果たしたと位置づけている。事前に、イランが「抵抗の枢軸」と呼ばれる代理勢力を使って報復するのではとの憶測も聞かれたが、革命防衛隊が直接的に作戦を実行することでそのような事前予測をかき消した形だ。近年、イラン国内では、保守派が三権の長を占めた他、本年3月1日の議会選挙でも躍進するなど、同派の声が強まっている。自国の大使館が被害を受けたことで、イランは断固たる決意を示す必要に迫られていた。今次攻撃は、先般攻撃を受けたイランが、攻撃を実行したイスラエルに反撃したものである。

 イランの攻撃は都市部や民間人を標的とはしておらず、飛翔体はイスラエル南部にある軍事基地内の滑走路等、及び、1981年以来イスラエルがシリアから併合したと主張するゴラン高原に打ち込まれた。イランのアブドゥルラヒヤーン外相は、攻撃開始72時間始前に近隣諸国に事前通告を出したと述べている。これらに鑑みれば、イラン側の立場は、今次攻撃を以て対決を更にエスカレートさせる意図はないというもので一貫しており、これにて五分五分として幕引きを図りたいものと見られる。

 一方で、イスラエルが今次攻撃をどう評価し、今後どのように対応を講じるかは未知数と言わざるを得ない。攻撃を受けた後、ネタニヤフ首相は戦時内閣の閣議を召集し、イランへの反撃について協議した。本土への攻撃という自国の安全を脅かす緊迫した状況を受けて、イスラエルとしても国民の声を汲み取りつつ対応せざるを得ない。こうした中、バイデン米大統領はネタニヤフ首相との電話会談で、米国はイスラエルによるイランへの報復に参加しないとの立場を示したと報じられた。米国が何らかのインセンティブを与えるなどしてイスラエルを諫めることができるかが一つの課題である。また、イラン・イスラエル間に国交はなく、公式の対話チャンネルが不在の中、互いに正確に意思疎通できるかはもう一つの課題である。

 これまで、イラン・イスラエル対立は暗闘と言われてきたが、イランによるイスラエル本土への直接攻撃という前例のない事態の勃発を受けて、より可視的な対決に移行しつつある。

 

【参考情報】

「イラン:イスラエルに対する報復攻撃をめぐる警戒の高まり」『中東かわら版』No.8、2024年4月9日。

「イラン:イスラエルによる革命防衛隊幹部殺害に対する反応」『中東かわら版』No.3、2024年4月2日。

「シリア:イスラエルがダマスカス市内のイラン領事館を爆撃」『中東かわら版』No.1、2024年4月2日。

(研究主幹 青木 健太)

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