中東かわら版

№151 イラン:ソレイマーニー司令官4周忌式典で爆発、「イスラーム国」が犯行声明を発出

 2024年1月3日、南東部ケルマーン州において、故ガーセム・ソレイマーニー革命防衛隊ゴドス部隊司令官の4周忌式典が開催されている際に2度の爆発が発生し、84人が死亡、284人が負傷した(注:当初、死者数100人以上と報じられたが、後に84人に修正された)。同日付『タスニーム通信』(保守強硬系)は、午後3時頃に墓地に向かう人々の列付近で1度目の爆発があり、その13分後に2度目の爆発が発生したと伝えた。イラン政府は、甚大な被害に鑑み、翌4日を服喪の日にすると発表した。ライーシー大統領は、国内対応に当たるため、予定していた外遊(トルコ)を取り止めた。

 同3日、ハーメネイー最高指導者は、邪悪で犯罪的なイランの敵が今一度、ケルマーンの親愛なる人々を殉教させたとして、敵は厳しい反応を受けることになるだろうと警告した。

 翌4日、今次事件に関して、「イスラーム国」(IS)がイラン名義で声明を発出し、ウマル・ムヴァッヘドとサイフッラー・ムジャーヒドの殉教者2名が、ガーセム・ソレイマーニーの墓地近くに集まった多神教徒ラーフィダ(注:シーア派の蔑称)の群衆の中で自爆ベストを爆破させ、300人以上を殺傷したと主張した。

 爆発の手法に関しては、ISの主張とは異なり、爆発物が入ったスーツケース2つが遠隔操作で爆発したとする報道も見られるなど、現時点で、情報は錯綜している。

 

評価

 ソレイマーニー司令官は、2020年1月3日に米軍の無人機攻撃によってバグダード国際空港近くで殺害された人物で、中東地域におけるイランの優位性を高めたとして国内で非常に人気のある人物である。今般、同司令官の4周忌に際し、地元ケルマーン州では大規模な追悼集会が行われており、そこに集った群衆が狙われることとなった。イランの国教シーア派の教徒を標的とした敵意に溢れた犯行であり、多数の民間人の死傷者が生じたことから、イラン国内では衝撃を持って受け止められるとともに、海外からお見舞いが寄せられる状況となっている。

 過去のイランにおけるISの主だった犯行としては、2017年6月7日の国会議事堂とホメイニー廟に対する襲撃事件、2018年9月22日の南西部フーゼスターン州都アフワーズの軍事パレードに対する襲撃事件、及び、2022年10月26日のシーラーズのシャー・チェラーグ廟に対する襲撃事件等がある。この他にも、過去、イラン国内で発生した治安事案としては、スンナ派反政府武装組織による襲撃事件や、イスラエルの関与が強く疑われる核関連施設への妨害工作及び要人暗殺等がある。今次攻撃では、ISが「戦果」を主張しており、過去の同勢力による事件との類似性も高い。イラン政府高官からは、米国やイスラエルの関与を疑う声が上がった他、SNS上でイランの自作自演説が囁かれるなどしたが、それらの諸説は打ち消された形となった。

 何故ISが今犯行に及んだのかについては、憶測の範囲を出ないが、ソレイマーニー司令官の追悼集会という衆目を集める機会を捉え、敵視するシーア派教徒を標的に、大きな「戦果」を挙げることで存在感を誇示したかった可能性がある。

 今後、イランがイスラエル・米国との対立を深めるのではとの見方もあるが、イスラエル・米国が今次事件の実行を主張するISを背後から支援している確証はなく、そのような曖昧な状況の中でイランが報復に踏み切るとは考えにくい。仮にイランが対イスラエル・米国への軍事攻勢を強めればイラン国内での体制支持者を増やすかもしれないが、国際的には理不尽な軍事行動だとして孤立すると予想される。このため、イランとしては、まずはISに対するテロ対策を強化するというのが自然の流れだろう。その過程で、イランがISを背後から支援していると見做す諸外国への批判を強めたり、ISの後背地となっている諸外国にテロ対策での協力を要請したりすることはあり得る。一方、2022年10月にもシーラーズでISの攻撃によって多数の民間人が死傷したばかりである。再び今次事件が発生したことで、イラン国民から治安機関への不満の声が強まる可能性はあり、多方面への余波に警戒が必要である。

 

【参考】

「イラン:シーラーズのシャー・チェラーグ廟での襲撃事件」『中東かわら版』2022年度No.108。

「イラン:アフワーズの軍事パレードに対するテロ事件」『中東かわら版』2018年度No.61。

「イスラーム過激派:テヘランでの襲撃事件」『中東かわら版』2017年度No.50。

(研究主幹 青木 健太)

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